【サンプル1※R15:「ノヴェンバー・フラット」:天海ED後】
これは、いつ零れたものだろう。
パステルカラーのバケツに水を満たし、クロスを固く絞って床を磨く。
覚えはなくてもなんだかんだと、日常がつくった痕がある。
膝をついて、それらをひとつひとつ追いかけていた。
なにかに集中すると周りが見えなくなるところがある私は、
きっと夢中になっていたんだと思う。
だから、ごしごしと擦ったクロスが天海の靴につきあたるまで、
彼が来ていたことに気がつかなかったのらしい。
誰の靴? と一瞬そんなとぼけたことを思ったくらい、
爪先を凝視して、ぱちぱちとまたたくばかりだった。
「愛しい子」
「っ!」
ハタと顔を上げると、声のとおりの顔が私を見下ろしていた。
「あ、あまっ…み!」
「何事にも熱心なのは好ましいことですね」
褒められたのは嬉しい。けれど、確か、ドアが開く音は聞かなかったはず。
私は正直にそう言って、慌てるばかりの顔を向けたら、
ちゃんと開けて入ってきたのだと天海は言う。
「……そう?」
天海は無言に頷く。
そして、静かな息をひとつ吐いてから言った。
「なにを気にしているのです。私がどのように現れようと、そんなことは些細なこと。
久方ぶりに地に足がついたというのに、もっと喜ばしい顔を見せてくれるのかと思っていましたが」
「あ……」
背を丸くして、手のひらを私に近づける天海の顔は、
言葉とは裏腹に笑顔だった。
私はつられて頬を緩め、クロスは落として手を取った。
キレイな手じゃなくてごめんなさい。
引かれるままに立ち上がって、首に腕を絡めてかかとを上げた。
同じタイミングで背中に天海の腕が回って、ふたりで引き寄せあうようにして唇を重ねた。
最初は少し長いのを、
それからついばむように何度かにわけて、顔を見ながらする。
ちゃんと嬉しいのだということが、このやり方で伝わっているといいのに。
さらりとしたシャツに、柔らかい素材のベストを重ねている。
どこかで買うわけではないのだろうけれど、
天海はいつもいいものを着ていて、顔を埋めると気持ちよくていい匂いがする。
ずっと抱かれていたくなって、離れるのが惜しいから困る。
「髪の毛、少し伸びた?」
そう言えばと思ったから尋ねてみた。
向こうの世界にいたときと、同じような印象だ。
背中に垂らした髪を指で辿ってみると、腰くらいまである。
「君が、短いのはあんまりと言うから、少し長くしたのです」
「え、したいと思ったらできるの?」
「それはもう自在に」
「……すごい」
ぽかんと口が開いてしまった。次元が違う。
そんなに簡単にできるのなら、たまには短い髪でもいい。
あんまりというか、見慣れなかっただけなのだ。
ちょっと傷つけたのかもしれないから、あとでちゃんと言おうと思う。
「綺麗に片付けましたね」
私はリビングから続きのキッチンに回った。
シンクの蛇口を捻って、ハンドソープで手を洗う。
「うん。たまにしか来ないから、結構汚れてた」
「そちらもするのなら、手を貸しましょうか」
「あ……、うん、でもまたあとでいいかなって」
「遠慮せずとも構わぬのですよ」
「ううん、そうじゃないけど」
だってせっかく会えたのに、ちょっとゆっくり話したりしたい。
会えない間にあったこととか、天海のことも聞きたい。
ソファで座っててくれればいいと言ったのだけれど、
天海はカウンターに肘をついて、頬杖に私を眺めていた。
シンクを挟んでいるから距離はそれなりにあるけれど、
そうまじまじと見られると照れてしまう。
だから冷蔵庫に逃げて背を向けた。
パカ、と開けると、火照った顔が少しだけ涼しい。
「な、なにか食べる?」
「いいえ」
「……じゃぁなにか飲む?」
「それも、いいえです」
「……そう」
と、私はややしんみりしつつ冷蔵庫を閉じた。
なにも提供できないなら冷蔵庫を開けている必要がない。
こういうとき、ひとの姿に見えるのは表面だけで、
天海はやっぱり神様なんだなぁと思う。
ここへ来る途中のグロッサリーで、
一応軽食とか飲み物とかを何食ぶんか買ってきたのだけれど、
だいたいそれらは、天海の口には入らないで全部私が摂取することになる。
いつものことだけど。
「あ! じゃぁお水は?」
「最後の手段は水ですか。好きになさい」
「……はい」
笑われてしまった。
仕方がない。好きにと言うんだから好きにしよう。
天海のぶんはお水を注ぐだけ注いで、
私は天海の向かいに座ってこれ見よがしにいろいろ食べよう。
いまの気分ならすごく食べられる気がする。
でもっていつか私が太ったら、ぜんぶ天海のせいにしようと思う。
私はもう一度冷蔵庫をひらいた。
------ 中略 ------
天海の悪態寄りの相づちを、私はそんなに気にしていない。
というか、こういうところもわりと好き。
それで私が膨れたら、膨れた顔も可愛らしいとか、
そんなことを言う準備をしてるんだろうと思うから、
その手には乗らないようにしているとも言い換えられる。
無駄口はそのへんにして、お水とジンジャーエールの瓶を取り出した。
ジンジャーエールは紫のラベルの、ぴりっとしたウィルキンソン。それは単純に私の趣味。
そして私は、天海がお水だけは口にすることを本当は知っていた。
だから、隣に並んでいたミネラルウオーターのほうも一緒に買っていたのだ。
二本の瓶を片手で持って、グラスを出そうと隣の食器棚を開けたとき、
後ろからふわりと抱き竦められた。
「ちょっと待ってて」とそう苦言しようとした瞬間に、耳許が甘く吸われる。
「んっ……ぁ、や……天海だめ」
「だめなのは君のほう。そのように甘い声を出して」
「ち、違っ……私はグラスを」
「私をもてなそうとしてくれるのは嬉しいことですが、乾いているのは喉ではありません」
二本の瓶は取り上げられて、傍らにコトリと置かれた音がして、
それから、私の腰のあたりへと天海は下腹をくっつけてきた。
「あ……っ…」
ぞくりとして竦めた首に唇が吸い付いて、膝がかくんと崩れかけた。
脱力した私の腰は軽く抱え上げられて、
更にぴったりと熱が当たる。
いつの間にそんなことになってるんだろう。
当たったところは服越しにもはっきりわかるくらいに熱をもっている。
顔を合わせてから、まだ一〇分も経っていない。
もし今ふたりとも脱いでいたら、きっとはいってしまう角度で、
天海はそれを私の脚の間へぐりと圧し付ける。
「君のせいです。久方ぶりに、君の声を聞いたから」
片手で私の腰を引き付けて、もう片方は服の裾から潜らせて、
下着の上から胸をまさぐる。
思わず上げた私の声がキッチンに高く響いた。
そんなふうにされたら、
なにをするためにここにいるのか、
私の中で目的が変わってしまう。
「ぅん……ちょっと……待って、お水」
「ひとの話は聞くものです。言ったはず。潤して欲しいのは喉ではないと」
◇
【サンプル2:「赤い糸」:共通ルート】
「いいえ、もうひとつ上の糸を」
「こっち?」
「そう、それと、反対の指で、もとの糸を取れば交差します。
左右に開いて、ああ、もっとぐっと広げなければ」
ゆきは緊張した面持ちで、思い切ったようにして糸を広げる。
引かれた拍子に糸が指先をすり抜けぬように、
天海は、肩幅にした両の手へ力を篭める。
ゆきの様子をうかがいながら、何事もないふうに糸を浮かせていることは、
想像以上に集中力のいることだった。
「上出来です。その隙間へ下からくぐらせてごらんなさい」
自分の手指のすぐ近くを、ゆきの手指が通る。空気のように。
ひとの肌には暖かい血の通うのだというが、暖かいとはどういうものだろう。
自分の肌と同じような温度だろうか、触れればそれがわかるのかと、
神の血が騒いでいる。
「どうしたの? 天海のばんだよ」
「――あぁ、そうですね」
傍目からはどう見えるだろう。
妙齢の男とうら若き少女が、顔を突き合わせて四角い座布団の上、
赤い糸をああでもない、こうでもないと、
取り上げては崩し、崩してはまた紡ぐばかり。
考えるにつけ笑い出しそうになりながら、
神力で手繰った糸を指にかけて新しい形にし、どうぞとゆきに持ちかける。
楽しくないことはない。決して。
十分かもしれないとさえ思いかけていたのだが。
「ねぇ天海」
「はい」
「天海は男のひとなんだよね?」
耳を疑う。ぴくと天海の眉尻が跳ねた。
「……どういう意味です。女だとでも?」
「そうじゃないけど。私の世界だけかもしれないけど、
男のひとがあやとりしようって、あんまり聞かない気がする」
「………」
「それに、男のひとにしては、というか、これも私が知らないだけかもしれないけど、
すごく肌とか綺麗だし」
肌のことはともかく、
あやとりについては確かに男の遊びでないことは天海も理解している。
それを選んだのには下心があった。
ゆきが身に纏っている赤い紐。
いまも半分ほどけたままに、それに気付かずそこにいる、赤い紐だ。
それでもって彼女を絡め取るところを想像したに過ぎない。
喩えるならば蜘蛛の糸のようにして。
しかし夢想は実現せぬ想像に過ぎない。
だから、それに似た赤い糸を使うことで代用しただけで。
誰も本気でこのような、辛気くさい遊びをしたいわけでない。立派な下心だ。
天海は手を止めた。
「なるほど」
「あ……怒っちゃった?」
「ふふ。いいえ、綺麗と言われて悪い気はしませんよ。
ですが、つくりもののように思われているのならば困ったもの」
落ちついて言葉にしたつもりだ。
怒ったのかと問われるということは、
うっかり顔に出たということなのだろうから、少し意識したのもある。
そして、確かに怒ったのではないからいいえと返したのだが、
では怒っていないのかと問われればそうでもない。
では、この気持ちはなんだろう。
そう思いながらゆきを見据えると、
やや固くなって、伺うような上目で見返した。
「いとけない子。先程君は、私とふたりで遊びたい、と言いましたか」
「うん」
「どうやらあやとりでは埒があかない。君には、男の私を一度見せておく必要があるようです」
言って、天海は反応を見ようとしたのである。
けれどどうだろう、ゆきは瞳の色一つ変えない。
ひどい話だ。蚊が刺したほうがまだ反応するのでないかと思う。
「神子」
「……はい?」
「その耳はお飾りかと思いましたが、ほぅ、一応聞こえてはいるのですね」
今度こそ怒っていると言われても構わなかった。
甘言で敵わないならいっそ辛辣で貫いて、
ゆきの表情を少しでも変化させたい。
「――だのに」
硝子のように、ただ均質に安定を保つだけの、
空虚で凡庸な反応に、こめかみがぴくぴくと繰り返し脈打つ。
これが、神とひとの距離だろうか。
見た目はほとんど違わないのに、なにがこれほど遠いのだろうと思う。
正座にした膝と膝との間には、
握りこぶしが幾つか並べられるだけに過ぎない。
その距離で、男にこう言われてその反応はない。
天海でなく他の男、つまり人間の男であれば――そこに体温を感じられでもすれば
――ゆきはもっと、鮮やかに恥じらって、怖がって、
思わせぶりな拒絶を見せたりもするのか。
そう思えばこそ、ゆきの見せる態度の、圧倒的な遠さにあぐねる。
言葉でも敵わぬなら、動くより他にない。
「たったいま、ふたりでする遊びを思いつきました。
まだ日が高いうちから、少々無粋ではありますが、まぁよいでしょう」
言って、鼻先をずいとゆきへ近づけた。
「……うん?」
「これでもまだ動じぬのですか。懲りない子」
打ってもまるでひびかない。
自分がどんな顔をしているのか、わからないとでも言うようだ。
誰も彼もあがめるばかりで
その決定的な欠点を
指摘さえしないなら私が
そう思う。
せっかくこの身は神なのだ。
もともと人とは格が段違いだ。法は常にこちらにある。
恐れる心を教えるのに、この身ほど必要十分な存在もあるまい。
口で足りぬなら行動に変えて、平易な言葉で通じぬなら、
通じる言葉に置き換えなくてはならない。
◇
【サンプル3※R18:「蒼茫の砂」:天海ルート中】
半ば誘導されるような気持ちで、天海の帯の結び目に手を掛けた。
私は和装に慣れていない。だからちゃんと見ないとわからない。
ぎゅ、と力を込めてほどくのに集中していたら、
不意に喉元に吸い付かれて肩が跳ねた。
「な……天海だめ」
「なにが」
「そんなことされたら、ん……っ、あ……」
「手元がお留守ですよ」
そう言われても、やめてくれないと力が抜けていくばかりだ。
ちゅ、と音を立てて、少し強く吸われてしまうと、
またさっきみたいに火照ってくる。
首筋に、耳許に、それから唇にも、
飽かず注がれるキスに、いつしか私は夢中になっていた。
天海の白い衣が肩を滑り落ちて、着物が緩んでいく。
私が帯を解いたのはほんのさわりくらいで、
あとは、私にさせるようにしながら、ほとんど天海が自分で解いた。
「ん……」
これは天海の声だ。
すごく満足そうに喉を鳴らして、私の濡れた唇をひと舐めする。
「君には感謝せねばなりませんね。これで私は自由です」
「あ……」
「早速疑うのですか。狭間へ逃げ帰ったりなどしません。
あるのは此処だけ。動いているのは私と君だけ。何処へも、逃れることなどできないのです」
天海の言葉を聞いていると、具体的なことが遠のいていく。
合わせの乱れた紫色の身頃の陰で、ちらと見えている肌が、
暗がりでも本当に白いことがわかる。
天海には悪いけれど、私はあまり、ちゃんと話を聞いていない。
それよりもただその胸に触れたくて、
手を浮かせたりまた戻したり、もぞもぞとさせている。
「いまは、ただ私を感じるだけで良いのです」
「うん」
「私に、すべてを預けていれば良いのです」
「うん」
生返事をしながら、私は天海に触れていた。
胸の間の窪んだ筋を辿って下降させると、
指にしっとりと磁石のように貼り付いてきて、すごく綺麗な肌なんだろうと思う。
ほとんど同時に私の素足を撫で上げはじめた手のひらもまた同じ感触で、
私が小さく震えると、間もなくスカートに潜ったその手が下着にかかった。
「良いと言いましたね」
「……うん」
「私に、全てを預けて良いと」
「……うん」
「ふふ。本当でしょうか」
目を見て頷いた。本当だ。
だから、下着がするすると降ろされていくのにイヤとは言わない。
腰を浮かせて、だとか、脚を上げてだとかの指示に素直に従って片足を抜くと、
それは膝のところでくしゅと力なく引っかかった。
「そうですか。では、信じましょう」
そう言って、天海は腰に手を回す。
そのまま下方へ力をかけられて、私は膝を折っていく。
私は恋が初めてだけれど、
このまま私と天海の同じところがくっついたらどうなるのか、知らないわけじゃない。
こうしていて、全然平気というわけではない。
「震えているのですか。愛しい子」
天海の手には、伝わっているらしい。
顔だけは気丈にしていても、身体まではごまかせないでいる私に、
天海は一層の圧迫をかけてきた。
「あ……っ…」
割れ目でぬるりとまるみが滑った。
それだけだけれど、いまのが天海の身体の一部であることは間違いなくて、
私の心臓はものすごく早く打ち始める。
急に怖くなって、がくと上体が崩れたのを天海が抱き寄せる。
さっき触れたときよりも体温が高い気がする。
男のひとの胸というのは、みんなこんなに熱くなるものなんだろうか。
「かわいそうに、こんなに胸を鳴らして。なるほど、君は男を知らぬのですか。
知らぬから、それほど怖いのですね」
「……天海は?」
「ふふ。君は私が男かどうか、そもそも疑ってかかっていたのでしたね。
わからないなら触れてみることです」
「えっ…!」
質問は微妙にはぐらかされて、
天海は私の手のひらをとってスカートに潜らせると、脚の間へ持っていく。
私ひとりでは、何だかんだと言って決して触れはしないだろうことを、
わかってそうするのだと思う。
「形もわからないものに貫かれるなんて、恐ろしいことでしょう」
「そ、それは……そうだけど…っ」
「気付いてやれずに、またも私は、君に意地悪をしてしまったようです」
「あのっ、ていうか……!」
曖昧に返事をして、寸でで後ろに引っ込めた私の手を、
天海は執拗に追いかけて探り当てた。
白くて、綺麗で、男のひととは思えない手だと思っていたのに、
手首を握る天海の手はずっと大きくてつよい。
強引に誘導する力に逆らいたいと思うのに、完全に拒否することができない。
たぶん、力の差だけのことじゃない。
心臓が速くなるのは怖さとは少し違っていて、顔が赤くなっていく。
怖いのと同じくらい期待する私も、確かにここにいるということなんだと思う。
さわったのは、さらさらした硬いなにか。
そこにあるものがどんなのか、
少しも知らなかったのに、私の額の裏には瞬間に、
それらしい形が思い浮かんでしまっていた。
「っ……!」
「わかりましたか。ちゃんと男でしょう?」
こくりと頷くと、天海は自分で手を添えて、空いた手でしっかりと私を支えた。
わかったら、もう容赦はしてくれないらしい。
まるい先端で、いれるところに目星をつけるような動きをしたあとで、
私は一息にそれを飲み込まされた。
「あぁッ……! や……ぁんっ」
普通、こんななのだろうか。
私には比較する対象がないからわからないけれど、
あまりにためらいのないやり方に思える。
内側は苦しいくらい、本当に狭い。
襞を圧し分けて遡上する動きに、私の意思とは関係なくぬるい液体が掻き出される。
全く慣らされないうちに深くふかく捩じ込まれて、
私は嗚咽のように喉を擦った。
「痛くはないはずですよ。初めての男が神で、君は随分と楽をしているのです。だのにいやだなどと」
「痛くないけど、っん、はいってくるのが……わかっ……あっ……あぁぁんやだ……」
天海の肩に両手をついて、がくがくと揺らされるのに耐えている。
これ以上広がらないと思うのに、内径をこそげるようにして突き上げるから、
いっぱいいっぱいになる。
「天海だって楽してる。初めての女の子にこんな……ッん、いきなり…!
ふ、普通びっくりするんだから!」
精一杯言葉にして苦言するけれど、
時折ふといいところを擦っていくから、途中で喘いでしまう。
説得力はあまりないと自分でも思う。
「ではどういうのがよいのです?」
「……」
「そう膨れないで。可愛らしい顔が台無しです」
「よ、よくそんなっ――ふ……」
都合の悪い唇は
こうやってふさぐんですか神様
ずるいずるい、天海はずるい
軽くトリがついばむように、何度も繰り返しされるうちに、
絆されてもいいと思えてくるから悔しい。
私はどうしても、天海が好きらしい。
「ん……」
「君の言うのは、こういうのですか」
腰の動きが緩められた。
浅いところでするゆっくりとした抜き挿しは、
天海が中でどう動いているのかが私によく伝わってくる。
一緒に胸をまるくまさぐられると、少しずつ身体が火照る。
じわじわと細かい汗が浮いてくる。
「……ぅん……っ、こういう、の」
キスの延長が首筋に降りて、一点の熱さを感じた。
痕がついているんだろうか。
そうなっているのを想像したら私も同じことをしたくなって、
見返すと、天海のほうから唇へ首筋を近付けてくる。
間近で見ると、青い筋が通っているのが透けていて、
神様も身体はひととそんなに変わらないんじゃないかと思う。
脈の上に唇を当てたとき、私のほうがビクとしたくらい、
天海のそこは柔らかかった。
気遅れた私は、天海がしたようには巧く吸うことができなくて眉根を寄せた。
「私を、欲しいと思えばよいのです」
「だって痛そう……」
「淋しいこと。君のものにしてはくれぬのですか」
「……する」
黒髪を掻き分けるように鼻先を埋める。
私の、とひたすらになって口づけている間、
天海がどんな顔をしているのか、見えたらいいのに。
「甘い痛みに、まどろみたくなりますね」
身じろぐように天海が動いて、私は唇を離した。
思ったより赤い痕になっている。天海の色が白いから際立つのだろうか、
あしたきちんと着物を着たら、隠れる場所だといいけれど。
「さぁ。そろそろ私に集中してもらわなければ」
「うん……?」
天海の腕が、改めたように腰を抱く。
一度大きく揺さぶられて、反動で天海の髪がふわと浮くのを見た。
それからの私は、なんだかとても不思議なのだけれど、
ずっと浮かされているみたいに感じていた。
初めてだから、確実にそうだとは言えない。
でも、男のひとに抱かれているという、具体的な実感じゃない。
それこそ、初めてなのに痛くもないから。
よく聞くように血が出たりも多分してない。
ただ、ひたすら気持ちよくて、どうにもならない声ばかり上げていた。
「あ……! あっ、あ……ッンぁ、」
「ちゃんと見なさい。こちらを」
「だ、って……恥ずかし……っんん……」
こんな声が出るのもそう。
上げる声と一緒に、濡れた水音が高く反響するのもそう。
ふたりきり、誰が聞くわけでなくても、天海が聞いていると思うとたまらない。
「や……ぁッ、ンっ……!」
「何故抑えるのです」
どうしてわかるの。こっちが聞いてしまいたい。
天海は私が我慢するのがきっと気に入らない。
だからわざと強い圧迫をかけて、高い声を上げさせようと、
もっといやらしい音をさせようとする。
「聞いちゃいや……!」
出てしまうものはどうしようもないから、
私は天海の髪を掻き分けて、両耳をふさごうとした。
けれど、胸を押し付けるようにして揺さぶられてしまうとそれさえできなくて、
浮かせた腕がほろりと落ちる。
「あっあ、や……待っ……、ぅン…っ!」
どうしようもないから顔を逸らしたのに、
すぐに顎に指がかかって、くいと簡単に戻された。
整いすぎの綺麗な顔で、泣きそうに顔を歪める私を見られたくない。
それなのに、天海は何処までも、ふた色の目で私を追いつめてくる。
「おねが……も……虐めないで…!」
「またそのように。感心しませんね、集中しろと言うのです。
私にすべてを預けるなら、恥も繕いも、すべてを忘れてしまわなければ」
「そんな……」
抱く腕に力が籠った。
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