− A Set of Papyrus ・後編 −








いつもの椅子が小さく見えた。
さっきまで私が座っていたところには、今は柊が腰掛けている。
私だと爪先が少し浮くくらいの高さだけれど、柊が座ると靴底がしっかり床についてまだ余る。


まだ柊も私も、ちゃんと服を着ている。
寝室には既にカギが掛けられていて、私が内側から開けない限り、マスターキーは夜番が朝まで握っている。


つまり、不審な者は一切入ってこられない。
正確には、不審な者は既に私が入れた後だ。


「こちらへ」
「う、うん」


呼ばれたのは、膝に乗せられて、少しだけじゃれあって、いったん腰を上げてからのことだった。
だから、こちらへ、というのはただ膝に乗るのではなくて、跨いで、ということなのだと理解する。


私は少しだけ裾を持ち上げて、柊の膝へ広げるように掛けた。
跨ぐにはどうしても脚を広げないといけないけれど、恥ずかしいので、
こうしておけば私の脚も潤沢な生地の内側、柊から見られずに済む。


よじのぼるように跨がって、顔と顔が近くなると、私の腕は自然に柊の首へ巻き付くようになってしまった。
これは一種、条件反射だと思う。
そして、そういうとき、柊の手がごく自然に私の胸にかかるのも。
指先は、着衣の上から正しく感じる一点を探り当てて、かり、と引っ掻いた。


「っん……」


常の状態から、こういう行為に移る瞬間は、いつも唐突に溢れている。
キスとか、甘い言葉とか、幾つしてもやっぱり、始まる時にはこう思う。
どういう顔をしたらいいかわからない、という意味で。
それでも、身体が先に反応してしまうという意味で。


きちんと着付けたはずの合わせへ、柊は手のひらを上手に滑り込ませた。
いちばん上のはすぐに緩んで、肩から剥かれるように落とされた。
薄い重ねだけになってしまうと、身体が軽くて心もとない。
もっと火鉢を寄せておけば良かった。


「じかに触れても?」
「う、ん」


目を合わせて頷いたけれど、ぐぐ、と開かれるときには恥ずかしさの極みに目を閉じる。
素肌に沿う柊の指は、やはりひんやりしていた。
指先で胸の輪郭をたどり、やがて膨らんだまるみを寄せるとき、
ビクと身体が跳ねてしまう。


「っんぁ……やだ、ぁ」


それくらいでイヤだなんてカマトトのようだけれど
柊がするのはそれだけでない。寄せたと同時、高い背をまるくして、
その膨らみへ口付けるからだ。
緩くゆるく、時間をかけて吸い上げて、まずはしっかり痕をつけるやり方をする。


「……どうしていつも」


まだ、前にしたのが消えずに残っている。
いつもいつもそうするのだ。


「いいでしょう? 他の方からは見えないところにするのですから」
「そういう意味じゃなくて」
「だって、私の」
「―――!」


ふいに口調を崩すのが怖い。
スイッチ入った、って思うから。


「や、あっ……、いや……ぁ」


痕をつけてしまったら、自由になった唇は頂を含む。
固くした舌の先で、輪郭を転がしたり、時に押し上げるようにして、唾液でひかる筋を描く、
そのたび私は、きゅんと角を立たせてしまう。


「んっは……っ」


反らした喉で、冬の夜気に向かって、ふわとまるい吐息を上げながら、
長くて、柔らかい髪のあわいへ指をさし入れた。
小さい胸に寄せるから、彼の額は私の硬い肋骨を、たぶん感じてしまってるはず。
もっと大きかったらふわふわして気持ちよくさせてあげられるのだろうけれど、
生憎、それはとても困難です。


押し付けたぶん刺激が強くなって、胸の中心からじんじんと裾野へ広がってゆく快感で、
腰を浮かせたくなる。


「ね……柊、濡れちゃう」
「から、触れて、と?」


顔を離した柊は、いつもの表情に少しだけ色みを浮かべていた。
竦むほど綺麗な目は青で、それはいつもより少し深い色をしてる。
これで右目もそうだったなら、私はもっと輪を掛けて、柊に取り込まれてしまってるんだろうか。


「我が君、」


私がすぐに答えないから、痺れを切らした柊は、追い打ちに「ん?」と首を少し傾ける。


「そんなの……」
「なに?」
「そんなのずるい!」


さっきまで怖かったくせに
やだそんなの可愛いじゃない。


「……して」


だから、最後には言わされちゃうんじゃない。
9つも年上のくせに、本当にずるいひとである。


これ以上赤くできない頬で、私が恋うのも無理はなく、
肌を晒しているのは私ばかりで、柊の着衣には未だ寸分の乱れもない。


「して、とは?」
「だから……」


跨がった腰をわずかに浮かせたところへ、柊は裾を割って手を入れた。
自分でもわかるくらいに濡れていて、下着の隙間を指が滑り入るだけで声が出そうになる。


「あぁ……っ」


手探りで動かすのに、感じるところを少しもまちがえない。
両利きの手はもう片方も差し入れられて、下着をつつと降ろしていく。
下着の圧迫がなくなって、動かしやすくなった柊の手はしっぽり濡れてしまい、
つぷと音を立てて私の中へ埋まる。


「あっ、ん……や……っ」
「いいって、ここがおっしゃる」
「も……そういうの言わないで」


喘ぎながら苦言して、どれくらいの説得力があるだろう。
自分でもつっこみたい。
される度にしなだれかかってく身体で、何も言い訳できないこと知ってる。


「柊ぃ……」


しがみいついた肩は大きくて、いい匂いがして
私の中の、ぬかるんだものを掻き出すようにして指を擦り付ける、そのとおりに小刻みに揺れていて
高まっていく甘みは確かに柊のすることなんだと、思えば思うだけ身体が熱くなる。


「ねぇ柊ってば」
「はい?」
「もう、だ、だめかも……」
「おや、随分とお早い」


ダメと言ったのに、そしてそれをわかってくれたっぽい返事だったのに、
柊は更に、うっすらと覆うだけの割れ目を人差し指で上下になぞり始めた。
とてもこそばゆくなるところなのを、知っててする。


「んっ、あ……!」


かくんと力を抜いてしまい、浮かせていた腰が小さく震えだす。
たまらず、しがみつく力を強くしたというのに、割れ目の中心をめくられて、
滑りよい指先でかり、とひっかくようにされたら、
またほどけそうになってしまう。


「ここは?」
「あ、あ……だめ、そこだめ……っん」
「感じる?」


目を閉じて頷くしかできない。
熱くしてく奥の方から、じわじわと一点へ集まって来る、さざめくなにか。
そこはいちばん直接的に感じるところだった。


「い…いや……やめて、おねがい」
「何故? ここは、あなたが泣いて気持ちいいとおっしゃるところですよ。もっとして、と」
「や……!」


身に覚えがあるからいたたまれない。黙ったのを好機とみたか、
柊はその小さな芽の、ねもとのぶぶんへ指の先を固定して、
くりくりと掘り起こすように、執拗に何度も繰り返した。


「あ、あ……んぁ……」


太腿にまで愛液が沁み出してくる。
それは肌を伝って零れて、跨いだところ、柊の着衣まで多分汚してしまっている気がする。


「やだぁ、いぃ…」


濡れた液を絡めて、柊がくちゅくちゅと水音をさせるのが、
衣服の内側から漏れて来る。
小さかった芽が大きく腫れて、びくびく鼓動する。
もういく、いきたいと思ったとき、ふつと動きが止められた。


「………え」
「少し、休憩です」
「そ、んな!」


いまにも弾けてしまいそうなのに、何故今か。
ここで止められてはたまらないのは、十分に伝わる顔をしている自覚がある。


「おや、泣きそうなお顔ですね」
「だって、だって柊が……」
「あなたばかり気持ちよさそうなので、嫉妬しているのかもしれません」
「もう、いま意地悪しないで!」


ふふと笑う顔が憎らしかった。
そうやって余裕を見せつけるのは、年が離れているせい。
私のことなんか、全部知っているからって、それをあからさまにひけらかそうとしている。


そんな関係を、年の瀬まで引きずって、迎える年もそういうふうに
私を好きなようにしようなんて
そうはいかない。


「でもね柊」
「なんでしょう?」


綺麗な顔の、左の目。近くちかく合わせた。
濡れた手のひらが、腰を抱く。


「私は柊を、ここへ連れて帰って来た」
「ふむ」
「あの時空の狭間から、現実の世界へ、それはすごいことではない?」
「ですね」


私は自分でも、未だに、あんなことができたなんて
夢の国まで行ってあなたの手を引いて、ふたりだけであんなものに当たって
最後には勝ってここまで帰って来るなんて



もう一回やれって言われたら、泣きそうなくらい怖い。



「ねぇ普通考えられる?」
「ですからあなたは、完璧です」
「……力抜ける」
「それ以上力を抜かれては、最後までできなくなってしまうのでは?」
「……しらない!」


九つも歳が離れていて、困ることはたくさんあったが、極みがこういうしとねの事情だ。
柊は当たり前のようにすることでも、私にとっては全て彼から知ることで、
初めてのときは胸さえ見せられなかったのを覚えている。
そのときは、シーツの中に手だけを入れて触れられた。
気持ちいいのが飽和するのをいくという、と教わったのもそのときだ。


そして、またいま、柊は私の局部を見もしないで、私は早くもいく直前まで高められているのだけれど
それくらい、何度も柊としたのだけれど
不思議なことに私はまだ、柊の全部を見たわけではなかったのである。


「じゃあ、私も意地悪する」
「それは楽しみですね」


私は、柊の膝へ腰をすとんと下ろし、その手で彼の、腰に巻いた帯をほどいた。
ふむ、というような声を耳元にきく。
異国の模様の、上等の上着の留め具を下から順に外すと、程なくして柊は黒の上下の格好になる。
胸の筋が薄く浮き上がって、どきんとした。


「いつも思ってたんだけど」
「はい」
「柊は、どうして見せてくれないの?」
「なにを?」
「―――!」


とても言えなくて、代わりに見たいところへ目線を落として、それからまた見上げた。
私が跨いでいる部分がまさにそうなのだ。
それがすることを何度も知ってるそのぶぶんは、シーツのなかでいれられては抜かれては、
そのまま眠ってしまって、明るくなって目覚めると柊はもう出ていってしまっている。


「……これ」


やっと言って、触れた。
衣装越しだったが、手の中でぴくんと動いたのがわかった。


「硬……っ」
「半分だけ、です」
「これで……?」
「はい、未だ」
「………」


黙った私に柊がしたことは、私の手のひらに自分のを重ねて、上下に扱かせること。
これじゃ、私が意地悪してることにはならないんじゃないかと、イヤな予感がする。


「なっ、なんて動き」
「普通です」
「ふ、ふつうってそんなの知らないよ…!」


すぐにそれはひとまきにできないくらいに膨らんだ。
股上をぴん、と先が押していて、形がうっすら浮かんでしまう。
まじまじと見てしまう。


「すごい……」
「欲しい?」


欲しくないといったら嘘だ。これが入ったらどんな心地になるか、とても忘れられはしない。


「欲しい、よ?」


言ったら、空いているほうの柊の指が潜った。
それは、途中で止められて、ふつふつ燻っていたところに深く差し入れられて、
また火をつけていく。


「あ、あぁん、っ!」
「欲しいものは、出してくださらないと。見たいとあなたがおっしゃったのですから」
「っ、んっ……どうしたらいいの」
「……どうって、それはあまりに簡単だと思うのですが」


そう。知ってるけどできないのをわかってと言っているのだ。
高まって行く身体を騙し騙し、柊の言うとおりに手を動かす。
ベルトに手をかけて合わせを緩めたいのだが、触られているせいで思うようにいかない。
ごく不器用な手つきになって苛立たしい。


「やぁ…できないぃ」


くい、と中で関節がまがり、感じるところに埋まった。


「ぁ……ん! いや、柊、指じゃなくて……!」
「ですから、なにを?」
「おねがい!」
「おっしゃって下さったら、いますぐにでも入れて差し上げますが」


柊はわざと衣擦れをさせながら留め具を緩め、入れるべきものを引き出そうとしている。
が、私が言わなければきっと、いつまでもそうしているのだろうという余裕の顔でいる。



ひとりでいくのはいや



私は、覚悟して、柊の髪に手を入れて、耳のうずまきに向かって、そっと声を出した。


「……柊の、いつものいれて」
「そう来ますか」
「もう、これで精一杯」
「実際言われてみると、我を失いそうですね」


そのときの柊の照れたような顔は、私にとって致命的だった。
言わせておいてそれはない。本気で苦言したい。
必死に余所を見ている私の視界は、そのときふわりと持ち上げられた。


「え?」
「節目の日なので、ここではなくて、ちゃんとしましょう」
「ちゃんと……って」


このまま入れられると思っていたから油断していて、
あっけなく腰をまるっと抱えられた私が、柊の歩幅でやや急き気味に連れて行かれたところは寝屋だった。


我を失ったと言ったのは本当だったらしく、
柊にしては乱暴かもしれないやり方で私は寝台の深みに沈められ、
柊にしてはやや急き気味に押し倒された。


「柊、ちょっと、待って」
「待てない」


柊は、さっきまで私に引き出させようとしていたことまで忘れたみたいで
上掛けもかぶらないで、下の着衣を一気に降ろしてしまった。


「!」


理性は目を逸らそうとしているのだが、あまりに急で、働かないではどうしようもなかった。
窪みの深いものは、さらさらとした皮膚で反るほどに勃っていて、
お臍の方へ向いた先の割れ目に透明のなにかが滲んでいるのまで、
私はなんてしっかり見たんだろう。


「いつも、そんなのがはいってたの…?」
「お気に召さない?」
「いえそんな」


初めて、男のひとの勃ったのを見たので、比べようもない。ただ、思っていたのとちがう、と思っている。
私の膝裏を抱えることでできた空間で、想像よりあまりに垂直のそれは、
怖いと竦む暇もなく入口にあてがわれる。


「あなたが見たいとおっしゃるまで、もったいぶっておきたかったのです」
「……こどもみたい」
「自覚がない訳ではありません」


そのまま柊が一つ腰を進めると、熱い熱い先がつるんとはいってきた。


「あぁんっ…!」


高さのあるところが、なかをぐりとかき混ぜる。


「あつい、ですね」
「っふ、ぁ……っ柊こそ……のくせに」
「溶けてしまわれる?」


ほんとうに、そうだ。つるつると鮮やかな手つきで、私の上の着衣を全部取り去って、
私は柊の黒い服を首からすっぽり引き抜いた。
いつもの体温より少しだけ熱くなった、白い白い綺麗な身体が、
吸い付くようにして、重なってくる瞬間が好き。
包みきれない背中を、無理して抱いてく瞬間が好き。


「……柊大好き」
「こちらこそ」


言った唇は鎖骨から少しずつ降りて、小さな胸のいただきを口に含む。
入れながらちろちろと舌を動かされると、周りのまるみが鳥肌になって、
ぷっくりと輪郭をもたげてくるのが自分でわかる。
柊からしてみればきっと、こうされるのが好きだというのが筒抜けているはず。
加えて、はち切れそうに膨らんだものを出し入れするのが、とても巧みなのだからたまらない。


「あっあ、ん、いや……いい……!」


地に着かない爪先が、柊がする早さで揺らされて、脚の付け根がふるふる震える。
そこへ零れたものを、柊は指で掬っては私に見せようとする。


「や、だってばぁ」
「もうこんなにしておられるのはあなたでしょう」
「でも恥ずかしいの……!」
「私がするたびに、みるみる狭くされておいて」


言って、柊は大きく私の足を広げた。それで動いたら、ますます深くなるから困る。
閉じようとするけれど、甘さに抗いながらの力などしがない。
ぐ、と半分隠したところでまた開かれてしまう。


「いや……そんなにだめ!」


首をもたげると、繋がった根元がしっかり見えた。
柊のそれがずぶ濡れになって、陰毛まで伝って汚したらしい。


「はいってる」
「いれているので」
「っ、んん……」


柊の指先が割れ目をひらく。
柊の目線はまさにそこと合っていて、舐められているような気持ちになる。


「ひくひくと。触ってもらいたいとおっしゃるよう」
「うそ…」


柊がなかですることと、外から加える快感で、絶えず喘ぐしかない。
控えの間に届かぬよう、これでも懸命に抑えているつもりなのだけれど、
意思とは関係なく声は増えて、足がどんどん開いていくのも止められない。


「もっと、して…」
「私ので? それとも指のほう?」


柊は言った順に、主張させるように動かした。
酷くぬめった音が、どちらの作るものなのかわからなくなる。
指は表皮を弾くように摘んで、中では誇張でなくうちがわいっぱいになったものが、しっかり奥まで突上げた。


「あぁっん……!」


身体がじんじんする。はいるたびに首筋に汗が滲んで、耳に残る動悸で肌が染まる。


「どちらが? こちら?」
「そう、なのっ! 柊のでいきたいの……!」


半ば泣きながら乞うた。
柊は満足そうにして、私の腰を引き寄せると、最初そうだったようにぴったりと胸を合わせた。
角度をつけて挿し入れて、根元のところで揺さぶると、なかで快感が細部へ充満する。


「あっ、あっ…いや柊…!」
「いやではなくて、いいでしょう?」
「っ、ん、いい……あ、あ、……や、いい……!」


いやもいいも、本当は、
もう、どっちなのかわからない。


「そんなに連呼されては、いささか恥ずかしいですね」
「いじわる言わないで…あぁん、だめ……っ」


柊はぱんぱんと音をさせるようなやり方で、長いものは何度も最奥に挿し入って、
私をきゅうと収縮させた。


「だめ、あっや……もぅい、く……!」


痛いんじゃないか、と思う力で縋り付く。
いってるときは、そうしかできない。
この背が、私の震えが止まる頃に、ビク、としっかり波打つのが好き。
それから、少しも遠慮なく、つぶすみたいな重さをくれるのが好き。









ねぇ、と何度目かの声を、隣の屍みたいな身体に向かってかけた。
柊は終わったら本当に、マグロみたいに動かなくなる。
だから、窒息しそうなその重い身体の下から這い出て、上掛けをかぶせるのはいつも私の仕事だ。


「本当に良かったの?」
「………なにがです?」
「だから、里帰り。せっかくなのに」
「ん……」


めんどくさそうな仕草だけれど、漸く枕から首だけ起き上がって、私に小さく口付けた。


「里帰りの為の申請じゃありませんて、申し上げたはずですが」
「聞いたけど。読まなかったのはごめんなさい。なんて書いたの?」
「まぁ、書いたのは里帰りに近いことですが」
「やっぱりそうじゃない」


へんなひと。そんなの前から知ってるけど。
そう思ったのが顔に出たのか、柊は上体を起こして、からかうみたいに私の小鼻をゆるくひねった。


「っも…!」
「出雲も、里ではあるのですが、どうせなら、私はあなたに帰りたい」
「―――へ」
「あなたがここへ、連れて、帰ってくれたので」


この世の、全てのひとを対象に、ずるいひと番付をつくるとしたら
私は金輪際迷いなく、あなたをいちばんにしてあげる


「ひどい」
「何故」


掛布に頭を埋めて、そして、柊の素肌の胸に額を押し付けた。


「だって」


冗談が続くと思うじゃない。
からかったその手もひっこめぬうちに、まともなことを言うなんて。
いつも私は損ばかり。



かわいいあなたに振り回されてばかり。



「陛下」
「こんどはどんなお願いですか」
「あなたが私の里では、そういうふうに思ってはいけませんか」


素手は私を抱きしめた。
押し迫った年の瀬に、背中が軋むくらいのを、くれた。


「―――そのとおりであると思います」



だから、あなたはずっと、ここにいて。



しんみりと、少し泣きそうになった頃、
出雲に戻っても、未来を観る力のなくなった柊は、あまり役には立たないのですみたいな、
聞かなくてもいいオチを聞かされた。


まぁ、でもそれはそれで
柊がこの26年ほど拠り所にしてきた大事なものを、私が奪ったということでもある。


私が泣かないように、柊は、
とてもらしいやり方で笑わせてくれるのだろうと思えば
なんてことないのです。


「元旦のお目通りは、許可していただけたのでしょうか」
「釆女が空気読め、って言ってた」
「読んだからです」
「知ってる」


そうであった。
その、たった一枚の申請書のおかげで、
もうすぐにゆく年と、擦れ違いに来る年の狭間を、
いちばん大切なひとと跨げる。



私がそうであるように、あなたも幸せであるといい。






− A Set of Papyrus ・完 −





もうなんていうか、柊のどうしようもない加減が大好きなわけです。
気を張ってるときはかっこいいんだけど、抜けたら全部抜けるみたいなゆるさ萌え。
けどそんなでも、千尋ちゃんのほうがしっかりしてそうでも、
握るとこ握ってる、隠した懐見せないけど一応深いのひとつもってるっぽい。
ほんとやらしいやつだ(誉めている)。 ルート中ひたすら健全貫くくせに、ED後一気にけしからん柊千が大好きです。

さてではでは…(正座)
今年も一年、楽しくサイトできました。
お話して下さった方、本読んで下さってる方、見に来て下さってる方、本当にありがとうございました。
迎える年もどうぞよろしくお願いします。

2009.12.31 ロココ千代田 拝