「ただいま。」
本来なら玄関で言うべき挨拶を、キッチンの扉を開けながらするのは那岐の習慣であった。
ひとえに、玄関でしてもここまで届かない声質であるから、と、ただそれだけの理由である。
「……あれ?」
まってました、とばかりに明るく迎えるはずの返事×二人分が、今日はどちらもなかった。
那岐は内心青くなり、早足で冷蔵庫の前へ。
トリのマグネットで貼り付けてある『夕食当番表』を確認する為である。
確か、僕の日じゃなかったはずだ、と思っている。
その代わり放課後の野暮用当番をこなして帰ってきた午後七時。
本来なら、騒ぎ立てている腹の虫が、更にけたたましく鳴き始めるくらいの、
いい匂いが漂っているはずの時間。
恐る恐るに、風早がエクセルで作った表をガン見する。
2/12 那岐
これは昨日のことである。
確かに、食べなければチャーハンに見えないこともない、というようなものを作った記憶がある。
見かねた(というか食べかねた)千尋が中座して、残り物をさらえてカニかまサラダを作ってくれて、
三人ともそればっかり食べた記憶もある。
で……。
2/13 風早
これが今日の日付である。
(………自分で決めたくせに何やってんだ。)
こういうことは非常に珍しい。
というより、今までにはなかった。
那岐が千尋に押し付けることは日常茶飯事だったが、風早は自分の当番をサボったことはない。
しかし、コンロの上にはフライパンも鍋もない。
そうか、用事でも出来て冷蔵庫に作り置いてくれているのかもしれない、
そう思って那岐は冷蔵庫を開けた。
(――――――。)
ほぼ、からっぽであった。
言葉を呑んだのは空っぽだった所為もあるけれど、もうひとつ、訳があった。
そう、空っぽだからこそ、中段に一つ、ちん、と置かれた『それ』が、
殊更目立っていたのだ。
薄い、長方形。
アルファベットで製品名が書かれているその形は、どこから見てもチョコレートとわかるもの。
(そっか、明日、だっけ。)
この時期冷蔵庫に入っているチョコレートといえば、ほぼ確実にバレンタインを意識したものであり、
ここ葦原家では、千尋が誰かにあげるものとして用意しているもの、ということになる。
女の子が選ぶにしてはあまりに板チョコっぽいな、とか思いつつ、
いやいやここは気付かなかったフリを決め込むべきだろう、とかも思いつつ、
込み上げる鼓動に抗えなかった左手が、つつと伸びてそれに触れた。
(…………ん?)
アルミ色のパッケージには、端から縦にハサミが入れられていた。
つまり、開封済であった。
千尋が個人的に楽しむ為のものであったか、と、若干安堵したのは否めない。
そ、っと戻そうとして、その文字を目にするまでは、確かに安堵していた。
『製菓用クーベルチュールチョコレート』
「―――――!」
『クーベルチュール』は初めて聞いた外来語である為よくわからない。
しかし、『製菓用』と2/14が重なれば、これが何を意味するか、
しかも、半分くらい削ったらしい、サラサラの破片が見え隠れしていたら、
流石に那岐も、クールを決め込んでいられない心地にもなるのである。
(千尋………。)
この先、明日に向かって、行く末はクッキリと明と暗に別れている。
恐らく今日、この日、千尋が作ろうとしている手作りチョコというものが
誰の手に渡るものなのか―――――。
好きな子と一緒に住んでるというのは、結構大変なことなんだ。
那岐は今こそ思い知る。
チョコを乗せた、震えそうな手のひらを意識し始めた頃、
玄関が勢いよく開いた。
「たっだいまっっ!」
那岐はチョコをあるべき場所へと放り投げ、その手で素早く扉を閉じた。
駆け足はすぐにキッチンへ辿り着いて、那岐としてはギリギリで間に合った形。
「あ、那岐帰ってたんだ!」
「ていうか風早は?今日アイツだろ?」
なるだけ平静に、いつものぶっきらぼうな加減で繕った。
制服でないところを見ると、一度帰ってきていたらしい。
「それがね、風邪引いちゃったんだって。奥で寝てるよ。」
「風邪?」
「そ、だからこれ。」
千尋は駅前の薬屋のビニール袋を、顔の前で揺らしてみせた。
「ルル!」
余談だが千尋のラ行の発音を、那岐は殊更気に入っていた。
風早には申し訳なかったが、頬が緩みそうになるのを何とか堪える。
「持ってってくるね!」
「あ―――――」
止めるより先に、千尋は回れ右して二階へ上がってしまった。
仮にも男が寝てる部屋へ、ひとりで行かせたくはなかったが、
追うなんて大袈裟すぎる。
(晩飯、どうすんだ……)
空っぽの冷蔵庫を振り返る。
その中身も、イヤでも思い出されてしまうのだけれど、
背と腹がくっついてしまうほど、空腹なのも事実で。
2月13日、心配事が二つになった。
千尋が再び、ドタドタと音を立てて戻ってきた頃、キッチンはさっきよりずっとあったかくなっていた。
「あれ、お湯?」
「何もないんだって。冷蔵庫。」
呆れたみたいな声の那岐である。
顔は手鍋でフツフツしているお湯に釘付けで、千尋からはよく見えなかったが、
声と同じく呆れ顔である。
「………そうだった!お薬と一緒にお惣菜買ってくるはずだったのにぃ……。」
「いいよ、別に。戸棚漁ったら出て来た。」
くる、と振り返った顔を、しばしぽやんと見つめられて、
僕じゃなくてそっち見たら、という意味で顎で指した。
テーブルの上に、フタを半分まで捲ったカップ麺を2つ、乗せてある。
「あ、私カレーがいい。」
「それ僕の。」
「えぇ?ずるいよジャンケンは?」
「早いもん勝ち。」
「………もぅ。」
千尋は項垂れつつ椅子を引いて座り、力なくシーフードのカップに手を掛けた。
那岐はまた後ろ姿に戻る。
着替えもしないでやっと探しあてたのだから、好きなのを貰う権利くらいはあると思っている。
「で?」
「え?」
「風早どうだって?」
「あぁ、だいぶしんどいみたい。明日学校お休みするんだって。」
「そんなに?飯は?」
「言ったんだけど、感染るから入らないで下さいって言われちゃった。」
「あいつ言い出したら聞かないからな……。」
「うん。だから早くよくなるといいね―――――あ!!」
三つ分くらい大きくなった声にぎょっと振り返った。
「ちょ、なに。」
「連絡網頼まれてたんだった。」
「………あっそ。」
「明日、風早の代わりに音楽の授業になるからアルトリコーダー持ってきてって。」
「了解。回しといて。」
「え、私の次は那岐だよ?」
「いま聞いたよ。」
「だから回すのは那岐でしょう?」
「だから今手が離せないんだって。」
「…………。」
お湯見てるだけのくせに。
と思ったかどうだか知れないが、千尋はむっつりと携帯をひらいて、冷蔵庫の前へ。
夕食当番表の隣に、サカナのマグネットで貼ってあるのが連絡網である。
「えーと、那岐の次だからぁ……」
千尋はぴぴ、とボタンを繰った。
那岐はコンロを止めて、二人分のカップにお湯を注ぐ。
「あ、もしもし、葦原ですけど。」
『千尋』でなく『葦原』と表現したのを聞いて、
なるほど、余り交流のない相手らしい、と、箸を割る。
普通は三分待つようだが、那岐は固めが好みであった。
湯を注いで3つ4つ深呼吸したら、すぐにフタを剥がしてしまう。
「連絡網なの。明日かざは―――葦原先生がお休みだか………え?………あぁ、そ、そうなんだけど………」
前半と後半で声のトーンが違っているのが気になった。
何やらあやしい雲行きである。ずず、とカレー味のスープを啜りつつ、耳をそばだててみる。
「……那岐は、いま手が離せないって。」
自分の名前が出たことで、ちらり、と目線をあげると、千尋は湯気の向こう、あからさまに沈んでいた。
「うん……、だから私が頼まれたんだけど………ごめんなさい。」
ごめんなさいって、何を謝るんだろう、と思っている。
が、何となく、相手が何を言っているのか、朧げな記憶が自惚れでなければ、思い当たるフシがないわけでもなかった。
あれからまだ幾らも経ってない。
2月に入ったある放課後、『つきあってる子とか、いるのかな?』って聞いてきた女子がいた。
出席簿順なんていちいち覚えてないけれど、那岐の次くらいに来そうな名字である。
本来なら、那岐が連絡網を回すべき相手が彼女であったと、どうやらこの流れはそうらしい。
「……いま?えっと……カレーヌードル食べてる。」
振り向いた、縋るみたいな目。
それは、言わない方がいいんじゃないかな、と思ったけれど、どうしようもない。
「ほんとに、ごめんね。………アルトリコーダー持ってきてって。
明日日本史が音楽になりますって。……うん、はい、よろしくお願いします。――――ん?」
向かいの席で、どんどんのびていくカップの中身も気になる。
元々千尋が食べたがった方は、もう半分くらいになってしまっていて、
残った方が不味くなっていくのを止められなくて、
回さなくていい連絡網でやな思いさせてるって、
何この交通事故みたいな、悪い偶然が上から上から重なってく感じ。
そしてそれは、更に長引きそうな気配。
早く切ってやれよ。
イライラが飽和しそうだった。
麺は殆ど無くなって、再びスープを啜る頃、千尋は電話を切り上げた。
「………わかった、伝えとくね。じゃぁ、さよなら。」
ぴ、と高い音が、やけに響いた。
狭い狭いキッチンだから、理由はそれだけだろうか。
「突っ立ってないで座ったら?だいぶのびてるけど。」
「……那岐。」
「……ん?」
促したのに、まだ突っ立っている千尋は、泣きそうな顔でこっちを向いた。
「どしたの。」
「連絡網、回ってきたよ。」
「千尋が回したんだろ?」
「……回したけど、回ってきたの。」
「………どんな?」
泣きそう、と思った顔は、本当に泣き出してしまって、それなのにこんなことを言った。
「………言ったら泣きそう。」
「ちょっ、千尋!」
那岐は反射的に立ち上がっていた。
普段、したことのない明確さで、千尋の正面にまわる。
感じたことのない早さで心臓が打っていて、背中にいやな汗が吹き出していた。
「ごめんなさ……」
「何言われたの……!」
頭一つぶん低い、華奢な肩に、こんなにも簡単に触れてしまえるほど、
那岐は余裕の全てを失っていた。
軽く揺らして促すと、ぎゅ、と目をつむる。
木の実みたいにこぼれる涙に、胸が騒いで焦れてゆく。
「那岐じゃなくて、私だったから、伝えてほしいって。」
「―――――。」
「明日、ね、………っ、明日―――――」
那岐は、手のひら全部で千尋の唇を塞いだ。
「――――――ふ」
「聞かないよ。僕は何も聞いてない。」
とても、腹立たしかった。
どうせ相手は、千尋に腹を立てているに決まってる。
千尋が言づてを伝えなかった、そう思って更に立腹したところで
今とそう、状況が変わるとは思えない。
それに、言づてにしてしまうくらいなら、そもそもさほどの気持ちじゃないって
少なくとも僕にはそう取れるけど?
だから、聞く必要なんか、全然ない。
千尋の声で、聞く必要なんか、もっとない。
それよりも、なによりも。
「泣くなよ。」
今まで、泣かさずに来られたのが、どんなに大変だったと思うんだ。
千尋に、こんな顔をさせないように、ずっと、抑えてきたこの気持ちが全部無駄になる。
何で、全然関係ない奴に、千尋を泣かされなきゃなんないんだ。
千尋は千尋で、意地にでもなっているのか、那岐の手のひらを剥がそうと躍起になった。
ここで口をつぐんでしまうのは、フェアじゃない、
そのように思ったのだということを、那岐には知る由もなかったが、
その力はあまりに強くて、意固地過ぎて、両手でかかられると止めようがなかった。
出来てしまった頼りない隙間から、千尋は大きく息を吸い込んで、
今にも続きを口に出そうとする。
「明日、バレンタインの放課後に……っ」
「聞かないって言ってるだろ!」
もう一度塞ごうとした手はぴしゃんと払われて、
あとで赤くなりそうな痛みが走った。
――――――これでも、言うっていうんなら
それでも、聞きたくない僕が、できることは――――――
その言葉を、喉の奥まで飲み込んでしまうことだけだ。
「明日、学校のおくじょ
「聞かない。」
「屋上で――――っ
ふっくり小さな唇の前まで、背中をまるく折って、
隙間なく含むようにして、ぴったりと口付けた。
飲み込んだ声は、那岐の睫毛の先で、あおいあおい目になって、まるくまるくふくらんだ。
「ん……。」
目尻に滲んだ涙も、あまいあまい何かになって、人肌の温度で融解した。
こうすれば、乾くと思ったわけでない。
女の子を泣き止ませる方法なんか、知るはずない。
けれど、もう、これ以上
こころの中で、固体のままで、とどめておけない。
煮詰まり過ぎて、ひどく苦くなってしまっていた想いが、 千尋の涙と混ざりあうみたいにして、
唇の間から沁み出してくるのを
我慢するなんて、出来なかったんだ。
初めてなのに、ながいながいキスをしている、と、気付いた頃、
ふたり、同極の磁石みたいにして離れた。
テーブルの、あっちとこっちに立って、どちらも顔なんか見れなかった。
「……………カレーの方、食ってごめん。」
「い、いぃいぃ、うんっ、大丈夫。」
千尋の声は多分に裏返って、とても火照っているように聞こえた。
こんな間抜けなことじゃなくて、謝りたいことは他にたくさんあったけれど、声帯が言う事を聞かない。
「………風呂行ってくる。」
「ま、まだ張ってないよ?」
「じゃぁついでに張っとく。」
「そ、そう。」
振り返ることも出来ないまま部屋に戻って、着替えだけ掴んで風呂まで直行した。
だからこの日、最後に見た千尋の顔は、真っ赤に染まったほっぺたと、
伏せた長い睫毛と、目尻に少しだけ残った涙の痕でぜんぶ。
頭から熱いシャワーをかぶっても、いっぱいの泡で顔を洗っても、
布団の中で目を閉じても、
全然消えてはくれなかった。
冷蔵庫の中段に放り投げた、クーベル何とかっていうチョコのことも、
その頃にはすっかり忘れていた那岐であった。
◇◇◇
2月の朝の、凍えるような廊下を、千尋はヒタヒタとゆく。
冷気は下へ降りてくるから、
小さな両の裸足が、あかくあかく、なっていた。
いつもなら、まだ寝ている時間。
千尋は三人の中でいちばん早くに目を覚ますのが常だったけれど、
それでも、起きるにはまだまだ暗がりに過ぎる。
けれど、今日は、起きている。
正確には、昨日の晩の延長で、起きている。
パジャマの袖に鼻先を付けて、深く息を吸い込んでみると、
やはり甘い移り香。
スイートのクーベルチュールは、既にしっかり固まってしまったのに、
ボウルの中で溶かして、撹拌してた時の匂いが、まだまだ消えないで残っている。
(やっぱりお風呂を後にすればよかった。)
紛れもなく明らかな事実だったが、後悔は先に立ってくれない。
潔く諦めて、目指す先のことだけ考えることにする。
本当は、挫けかけていたんだけど。
那岐に、あの伝言を伝えなくて、ほんとに良かったのかなって、
今も、少しだけ迷っているんだけど
そう、私が伝えなくたって、きっと何とかして彼女は
那岐を放課後、屋上へ、呼び出そうとあくせくするんだ。
だって、今日は、そういう日なんだから。
好きなひとがいる女の子が、一年でいちばん、頑張れる日なんだから。
これまでにやって来た同じ日のことを振り返ってみるに、
登校早々、靴箱を開けた那岐の足元へ、バラバラと落ちてくるチョコレートの雪崩。
これだけでも結構なダメージだが、
休み時間の度に、誰かに呼び出されて廊下へ出てく那岐の後ろ姿、というのが続くから、
こんなところでへたってはいられなかった。
放課後は放課後で、「先に帰っててもいいけど?」とか言われつつ、帰りたくなくて。
自ら進んで、教室で待ちぼうけを喰っていた。
あからさまに、だるいです、という顔をした那岐が戻ってきて、
机の中から溢れ出た鞄に入りきらないチョコレートを、
「入れて。」
って、千尋の鞄に詰め込むのが、何でだろう、すこしだけ嬉しかった。
帰り道、微妙な隙間を空けて歩きながら、千尋が渡すチョコレートを、
またか、みたいな顔で受け取る。
よく考えたら、辟易だったんだろうな、と、今頃気付いた。
恋とか、好きなひととか、そういう話はすごく、好きじゃなさそうだったし。
でも、昨日、初めてのキスをして。
那岐と、して。
もしかして、もしかしたら、って、思っている。
自惚れかもしれないけれど、でも、那岐だって、多分、初めての、キスでしょう?
初めてのキスは、好きなひととしたいものって、思っちゃダメかな?
(だから、私は。)
その、自惚れかもしれない那岐の気持ちが変わらないうちに。
帰り道まで待って、辟易にならないうちに。
那岐が手にする、今年初めてのバレンタインチョコを、あげたいって思うの。
学校へ行ってからじゃ遅いから
玄関を出ちゃったらもう、始まってしまうから。
いま、まだ眠ってるはずの那岐になら
きっと、いちばんに届くはず。
不思議と落ち着いているこころで、そ、っとふすまを開けてみる。
カーテンの向こうは、まだまだ夜みたいな色だった。
頭まで布団をかぶって、まるくなって眠るのは、小さい頃から変わってないみたい。
きし、と畳を鳴かせながら、小さな包みを抱え直す。
お店で売っているよりも、随分ちゃちい感じになってしまったけれど
いま想っているだけの好きを、全部詰めた。
幸運にも、那岐はこっちを向いて寝ていた。
可愛い、とか言ったらぜったい怒るんだろうな、と思いつつ、
枕元で膝をついた。
「那岐。」
一回寝たら、自分で決めるまで起きないひとを呼ぶ。
「ねぇ、起きて。」
近い近い顔。近い近い唇。
傷一つない滑らかさで、とても柔らかいんだということを、知ってしまったからだろうか、
もう一度、と思う気持ちが込み上げる。
「那岐ぃ………。」
甘い気持ちは眠りに似ていた。
幾ら呼んでも起きてはくれず、徹夜の瞼が重くなる。
すごく悪いことをしてるみたいな気がするけれど、
このまま、ここで、すこしだけ。
眠ってしまっても、いい?
同じ色の髪を、絡ませるみたいにして、
なるだけ傍へ、頬を寄せたい。
(――――ううん、でも。)
誘惑を振りきるのは至難だったけれど、
千尋は、頬と頬の間に、小箱をそっと置いた。
目が覚めていちばんに、チョコを見つけてもらわないといけないから。
そう、出来れば夢の中にまで、あまい香りが届くように。
誰よりも、いちばんに、この想いが届くように。
白み始めた空から隠れるように、千尋はこくりと瞼を伏せた。
- The Kitchen and the Bed -完
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