You're the Whole
(那岐モノローグ・微シリアス注意)



さく、さく、さく、と
頼りない砂を踏む
ひとつ、ひとつ、進める度に
指の間から砂は零れて、また新しい砂がはいってくる

前にここを歩いたときは、隣にまだ君がいて
同じように指に砂を絡めながら歩いたけれど
それは
心に何かひっかかったままの、僕の心と同じみたいだったから
ものすごく不愉快だったんだ


でも、いまは
さらさらと、侵入しては零れゆく
指の間で遊ぶ小さな粒にくすぐられるのも、悪くないって思う


探し物が見つからなくても
明日が過ぎて、ここへ立つ事はもうなくても
そのうちに君が僕の事を忘れても
今僕は一人で
ただ君のことだけを、考えていれば良いんだから

結局僕は、こういう風にしか、君のことを守れない
しがない我が儘を、もう一度だけ聞いてよ



こんな夕焼けの空にばかり気をとられていた頃の君や
ひとりになろうと思っても、いつの間にか隣にいる君の顔や
言いかけた言葉を、咄嗟に遮ったときの悲しい目も

あのとき言いかけた言葉を、聞かなくて良かったと
今でも僕は、思っているんだ

君のことを思い浮かべる時に、いつでも隣に僕がいることは
僕が記憶をたどるんだからそれは、当たり前の事なんだけど
それでも、思ったより君のことを、たくさんたくさん覚えていて
ちょっと全部を、取り出して来る事は難しいみたいだ

だから、君の一番いい笑顔を思い出す前に
明日、ここに立つ事にならないといいと思う
どうせ最後に思うなら
2番目の笑顔より、一番の笑顔の方がいいじゃないか

尤も、今までに僕が、それを見ているんだって
信じたいだけの事なんだけど
それだけのことを、僕が君に出来たかどうか
困った事に、まるっきり自信がないんだ



砂浜の、一番広くなったところで、ぺたんと腰を降ろしてそのまま背を倒す
視界は、赤い海から空に変わったけど
どっちにしてもそれらがとてつもなく大きいものだってことに何も変わりはなかった

だけど
悪いけど
立ちすくんだりなんてしないよ

ひらひらと、頼りない生地の、頼りない色目の服を着てるけど
身体だってそう大きくはないけど
これでも僕はそんなに弱い訳じゃないんだ
ひとりになったときからずっと、この勾玉が首に掛かっているんだから


一人でも、死なないで生きて行けるように、誰かが託してくれたもの


と、ずっと思っていたけど、そうではないということが
17歳になった今、ここで、漸くわかる

それを使いこなすだけの力が、この身体の何処かに確かに隠されているという事実。
僕ではない誰かの為に、使えるだけの力を、内包して産まれたということ。

そのときに、差し掛かったんだという、それだけのことに
こころは嘘のように凪ぐ
この名の通り、僕は今、知っている中で一番穏やかな気持ちでいる


「すきだよ」


使命とか、運命だとか
そんなことは信じない、そんなものに左右されるのがこの想いだなんて思わない。
本当なのは、僕が君を、失いたくないっていう



たった一つのことなんだ



この手が、君に触れて
君が笑って、ときに泣いたりして変化するのを
見られなくなるとかそういう事に、耐えられるようには出来てない
それだけの事なんだと思う

そして、出来るなら
君から預かった大事なものは、この手から君に直接、返したいから
無下に挑むつもりだけじゃないんだって事も、ほんとはわかって欲しいんだけど
いや、それだけは何とも解らない部分ではあるし
約束なんて出来ないから

優しい言葉をかけてしまったら、砂細工みたいにして
身体から零れてしまうものがある
そんな気がして怖いだけ



妙な被り物をして、僕の前に現れた君は
白い脛に、引っ掻き傷をたくさん作っていた
見つかるのを警戒して、裸足で走ってきたんだと思った

不謹慎にも、触れたかったし
手当の一つだってしてあげたかったし
夜道を一人で帰すことになるなんて、それも本意でなかったし


もしも、もう一度
この砂浜を君と二人で歩ける時が来るとしたら
その分も、ちゃんと謝るから
壊れるくらいに、抱きしめるから


もう少しだけ、一人にして欲しかったんだ


潮が満ちて、鏡のような水面が一面に張って
あかい陽光の反射も、ひとつのまるい鏡像になって
その、澱みなく孕んだちからのすべてを
ただ、君だけの為に

ほら、ね
他には何も、考える事なんてない
君はその名の通り、僕の感知出来る感覚の四辺を、隈無く埋め尽くす
そういうふうに、僕と君は、できているんだ


陽が沈んで、何も見えなくなるまでに、あと幾つ君を、思い出せるかな
そればかり思っているのに、不安げな君


僕を満たすものは、いつも、全部、君なんだから
ねぇ、そろそろ、笑って見せてくれてもいいんじゃない?











那岐ルートの最終戦前日のつもりでしたが、私が書くとさほどシリアスにさせられないことを改めて学習(・・・)。
薄々気付いていましたが、どうしてもハッピーエンドを匂わせずにいられない性分のようです。

一番傍にいきたいときに、そうさせてくれない那岐クンは、ほんとに誘い上手だなと思うわけです。
サザキに借りた衣装で、怪しさ満点で忍んでいった千尋でしたが、那岐のあの反応には心底凹んだだろうなと思います。
那岐としては、いいたい言葉を全部堪えた結果がアレだと思うので、個人的にはとっても好きなイベントですが、当事者たまったもんじゃないですね、わかりますちひ。
でも、那岐のあの取り乱し様を見ると、あれで最後にしようと思ってるとはちょっと思えない感じがして、うまくいけば、また一緒にいられるときもくるよなっていう選択肢も、捨ててない気がします。
少なくとも好きな子とこれが最後なのなら、ある意味発つ鳥後を濁さない方が、めんどくさくなくていいですから・・・
あの場なら、那岐が黙ってさえいれば、それほど大事にはならない気がしますし。
それでも、一人で挑んでいこうとするだけの気持ちを整理するのには、千尋が視界に入ってくるっていうことが一番の鬼門だったのかもしれないな、と穿っております。
「あのとき言えなかった気持ち」を捏造しました。む、後悔はしていない(笑

2008.09.27 ロココ千代田 拝