「18歳ってどんな気分?」
暢気な上目遣いの君が言う
「別に」
って言ったら、やっぱり怒った
僕が僕の事をどう感じるかなんて、別に君に関係あるとは思えないけど
口癖みたいなこの言葉は、半々の確率で千尋の逆鱗に触れるみたいだ
怒った顔も嫌いじゃないし
ていうか割と好きだし
だからわざわざからかってみることもあるんだけど
ちょっと僕が誕生日だからって
持っている中で一番可愛い(と僕も思っているかどうかは別として)服を選んで
とってつけたような髪型をした君に
そんな顔をさせてしまうのは、あんまり褒められたことじゃないって
ほんとうは知ってる
「ごめんって」
黄泉の記憶から一年経って、肩より下まで伸びた髪を
多分頑張って結い上げた中に、くしゃ、と指を入れる
あんまり優しく撫でた訳じゃないから
折角結ったのに、と、君はまた膨れ、何の形だかよく解らない髪飾りをしきりに直した
何処がどう崩れているのか、ほぼわからないのに
そうやって困った顔をする
こうなると、もう触れさせてはくれなくなるから
僕はポケットに手を突っ込んで、笑いを堪えているくらいしかすることがない
君と僕は、こんなに何も変わらないのに
どうしても違いを見つけたがっているみたいだから
吹き出して更に機嫌を損ねるのはやめて
鏡を覗き込んでいる背中を眺めながら、君が喜ぶ答えでも考えてるフリをするよ
君より少し早く、17歳が終わったということ
だからって別に背が伸びる訳じゃないし
君にしてあげたいことすべてを
かっこよくできるようになるわけでもない
夏の終わりに、蝉の鳴き声が変わったなぁなんて
18になった今年もやっぱりそんな事を思って
だけど
それが学校帰りじゃなくて
君を守り切ることができるのかとか小難しい事を考えながらの
鬱々とした帰り道じゃなくて
例えば夢半分、現半分で歩いているみたいな気分で
君の待つ部屋へ帰る道すがらに
まるでついでみたいにして、思ったんだ
それを、感受性の退化とか、第六感の凡化とか
そういう風に表現してもいいけど
それよりは多分、少しくらい猫背が治って、空が近くなったとか
前よりは躊躇わずに、真っ直ぐ腕を伸ばせるようになって
君が近くなったとか
そういう事なんだと思うよ
言ってもわからないと思うけど
うん、わからなくていいんだ
君と過ごしたどの誕生日より
18になる今、一番君の事を好きだと言える
それだけは、たしかなこと
例えば19になるときは
35になるときは
今よりもっと君を好きなのかな
そうだとしたらこの僕は、その時の僕に
今から猛烈に嫉妬してしまえる
僕よりもっと背が高くて
思うよりも上手く、君を守れている僕だとしても
今よりたくさん君のことを、笑わせてあげられる僕だとしても
この気持ちより強く、深く、君を思っているだなんて
何だか悔しいじゃないか
だから僕は、18になったからって、なにも変わったりしない
ずっと、君を、すきだよ
君といくらも変わりはしないこの非力な身体で
出来るだけはみ出さぬように包み込んで
例え未来の僕にだって、触れたりは出来ぬよう
ひとり占めにしたいくらいに
千尋はまだ鏡と睨めっこして
微妙に後れ毛を直したり、前髪を弄ったりしていて
僕は背中から手を回して、鏡の中の千尋と目を合わせた
「まだ終わんないの?」
「うーん、ねえこれ可愛い?」
「可愛いんじゃない?」
「もー、それ適当でしょ」
それでもこの瞬間から、僕はもう、さっきまでの僕じゃなくて
みるみるうちに追い越されてゆくから
ただ君が届くところまで、この腕で抱き竦める
僕が僕であるために、君のぬくみが必要なんだ
こんなことを言葉にしたら、どれほどしょうもない男だと思うだろうけど
そんなもんなんだって
大切なものを、大切と言えてしまう男なんて
たったこれっぽっちのものなんだって
「や・・・・那岐・・・・!」
千尋の項に噛み付くと、既に甘い香りが鼻腔にとどき
鏡に映った二つの頬が、薄い紅に変わってゆくのを
君は、僕は、ここから見ている
そのとき僕は気付いてしまった
きっと僕は、17歳の僕よりも、ただただ退化している
君の為だけに、退化してゆくんだ
君よりも早く、ひとつ大人になったのに
それじゃ、情けなすぎるって、思う?
「18歳の僕と、やってみる?」
「あ・・・っん・・・・那岐・・・?」
昨日までとどこが違うって、そんなに知りたいなら
君の為だけにこんなに貪欲になってしまった僕を
知ってみる?
踝まで隠した、軽く、頼り無く揺れるプリーツの裾から手を入れて、
滑らかな肌を上に上に、手のひらをのぼらせるのに
胸のところで結んでいる細い革紐に阻まれた
ちゃんとほどけばいいのに、そんなことさえ煩わしいくらい
僕が触れたいものは、千尋の肌でしかなかった
「そんなにしたら・・・服、破れちゃうよ・・・・」
「じゃ、自分でほどいたらいいんじゃない?」
「そんな・・・っ・・・・や・・だぁ・・・」
「僕は、何もしないよ」
「・・・・・んー・・・・」
相当切羽詰まった顔をした千尋は、迷っている間に僕の指が下着の中に滑り込んで
濡れた浅いところで動かすのに、ついに高い声を上げ
胸の紐に右手をかけた
背中できっちりと押さえ込んでいる衣服が、きゅ、っとひかれて
全てをほどき切るほんの直前になって
千尋は左手で鏡のカバーを引き下ろした
「何で?」
「だって、恥ずかしいもん。」
「僕しかみてないのに?」
「そうだけど・・・鏡越しだと・・・何だか那岐じゃない気がするんだもん。」
「――――――――そう?」
そう、君が言うのなら、それは僕ではないのかも
君を、捕まえたくてたまらない、いつかの僕か、これからの僕か
そんなものに見られてしまうのは敵わないっていうのもあるし
君がそうまで言うならば
そう、少しだけほっとした等身大の僕が、
この目で全部、見てあげる
そう言うと、千尋はほんのり目を強くして
胸元の最後の巻を緩めた
そのときの、上目遣いの蒼い瞳に、僕は言葉を失って
ただ千尋を押し倒すことしか考えられなくなって
もう、そこが硬い床だとか
このまましたら千尋の背中が痛いんじゃないかとか
僕の膝が擦り剥けてしまうんじゃないかとか
そんなことは、少しも頭になかった
プリーツの中から、同じようにひらひらと柔らかい下着を引き降ろしてきてその辺に放った
多分、かなり選んだと思われる感じに見えたけど、
そんなものは一瞬で、僕の視界から外れてしまう
それより僕が夢中だったことは、君にいれなければならないものを
痛いくらいに押さえつけているこの、つまらなくて邪魔な衣服を
少しでも早く脱ぎ捨てること
ぶっちゃけ上の服とかどうでもいい
とか思ってそのまま覆い被さったら、千尋が裾を引っ張って、頭から引き抜いていった
そして、少し憤慨した、という感じで
「せっかく紐とったのに、胸、触らないの?」
なんて言う
「・・・・どうしちゃったの?」
僕が返せるのはそれくらいのことで
それでも馬鹿みたいに胸が鳴って、ちょっと笑いそうになるくらい
これを言葉にすると、多分至福、とか、そういうことになるんだと思った
僕はもう一度裾から手を入れて、自由になった腰のラインをたどって
プリーツを胸まで引き上げた
今日の千尋の、髪とか服とか下着とかを考えると
その胸のところに
どんな一張羅をつけているのかと思ったけど
そこにはひとつの邪魔もなく
ただ白く、ツンと上を向いた小ぶりの胸に、じかに触れられるようにしてあり
すぐにでも、その尖りはじめた桃色の粒を、含みたい気持ちを抑えて
「どうせなら下も脱いでてくれても良かったよ」
とか、そんなことを言って、また怒らせたりした
それでも、触れるとすぐに身体は柔らかくなって
僕がするとおりに千尋は、いつもより甘い声を上げた
そうする間に、千尋のさらさらの太腿は、僕の零したものでたくさん汚れた
「17歳のと何か違う?」
入れる前に聞いた。
千尋はうーんと言いながらまじまじとそれを見て
「入れてくれないとわからないな」
とか暢気なことを言った
君を初めて抱いてから、まだ幾らも経っていないのに
最初は触れるのも怖がったものを、そんなに平気な顔で見られたら
それはそれで複雑なんだけど
ちょっと苛めてやろうと思って、慣らさずに一気に埋め込んだ
「やぁ・・・・ん・・・!」
指で零されずに、奥の方で淀むようにして潤っていた液体は
俄に僕の先端に触れて
まるでふかい淵に飲み込まれるみたいに、螺旋にゆらりと降りて来る
「ん・・・・ぁ・・・・・・っ!」
情けなくもこれは僕の声で
多分千尋も、僕も、こんな声を聞いたのは、初めてだと思う
浅くまで引き抜いて、もう一度入れるときに、
つながったところから溢れくる、みず
惜しむように引き絞る内壁に、僕はただただ翻弄されて
よせばいいのにその先へ届かせる欲情を抑えきれなかった
一際柔らかく、熱く包まれるところを、
先端の、一際高さのあるところで、何度も何度も擦らせた
こんなにしたら、僕の方が先になってしまうかもしれなかったけど
もしそうなってしまったら、誕生日だからってことで
きっと許してくれるんだろうなって
殆ど朦朧とする頭の中で思ってしまった
「千尋、悪いけどちょっとだけゆっくりさせて。」
「ん・・・・?」
脈打っているものを千尋の中で止めて、
ぺたんとその胸の上に倒れる
僕も、千尋も、細かな汗の粒で濡れていて、しまりなく開いた唇の隙間から
しょっぱい味が侵入した
背中に回る細い腕は、ぎゅうとしなやかに力があって
そうだ、千尋は弓を使ったんだと、今更のように思い出す
そのことと、ぴったりとくっつけた柔らかな胸の感触に
柄にもなく感じ入ってしまって
僕はそのままの姿勢で、緩く腰を動かす
「あっ・・・・・・ん・・・」
「こんなでも感じる?」
「ん・・・・なんか、早いのより好き・・・と思・・う」
「・・・ふふ、そりゃ助かるけど」
せめて君が、自由にして待っててくれた胸と
僕に見せる為に選んでくれてたとっておきの下着を、
殆ど無視してしまったことを
どれほど僕が期待したかということの言い訳にして
泣かすくらい焦らしていい?
なんてかっこいいこと言っても、実際これが、僕の精一杯だったりするんだ
「那岐・・・っ、やだ、いいっ・・・なんで・・・・ぇ?」
「だって18だし」
「や・・・んっ・・・・あっ・・・あっ・・・!」
そして千尋が、きつく閉じた瞼の間からほんとに涙を零して
中が馬鹿みたいに熱くなって
限界だっていう僕のを、いっぱいに締め付ける
先から滲むものを全部、吸い取ってしまうみたいに
僕は、千尋の中に溶けてしまう
「那岐ぃ・・・・私、も・・・・だめ・・・だよ」
力一杯に爪を食い込ませて、僕の背にかなりそれは響いて
一瞬覚醒してしまって
だから僕は、千尋にこれ以上、膨れっ面をさせることは
間一髪だったけれど、確かに免れた
全部見てあげるって言ったんだから
千尋がいくときの、ありえないくらいの収縮で僕を飲み込もうとするのを
いまひとたび、こらえて
「好きだよ」
僕とて喉を引き絞るだけの声量
激しい渦の中に巻かれて、たとえ君に聞こえなくても
今、これだけは、言いたかったんだ
この先、18になった君に
35になった君に
これ以上の『好き』が、届いていなければいいと
それだけ、言いたかったんだ
「どう?何かわかった?」
「・・・・・先に大人になっちゃって、ずるいなって。」
まだ全然息の整わない君に
こういうことを聞くのは、きっとずるいことだと知っている
だけど、そうでないと
あまりに心もとない僕に、全てを任せているって、思われてしまいそうで
今日だけは、こういうことを言う僕を、許してくれるはずだって
だって今日だけじゃないか
僕が君に、甘えてられるなんて
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