◆Special Thanx for... 胡蝶様






『半年』なんて、ただのこないだだと思っていた。
ぼうっとしてるとすぐに過ぎてしまうし、何かを突き詰めようと思うととても足りない。
たったそれくらいの時間だ。


それが、ひとりの子を、好きとこの口で言う、そして彼女もそう言った。
その前と後では、半年だろうが昨日きょうであろうが、
世界はまるっと手のひらを返す。


いま、僕は、目の前がこんなに広い。




− 異文化的青春スコープ −




ひとからもそう言われるけど、 自分でも、落ち着きのあるほうだと思っていた。


けど、いまこころの中を覗かれたら、結構な浮かれ具合であろうことは自覚がある。
そうとは悟られないように振る舞うことが、目下僕の中で重要な課題だ。


「那岐!」


千尋の声が背中やや後方から、聞こえて胸がちょっと鳴る。
僕は、班の男子数人で、教室の壁に『飾り付け』をするための小道具を、
上のヤツに手渡したりする役目をしていて、首だけを千尋に向けた。
机の間を、僕に向かってぱたぱた走ってくる、何か頼み事がありそうな顔の千尋は、
半年前と同じように、髪を上でまとめてる。


「すごーい、出来てきたね!」
「まだまだだよ。でっかい看板取り付けるっていう、大仕事が残ってる。」
「どの看板?」


千尋は周囲を見回す。残念ながら、言ったようにでっかい看板だから、
取り付け直前まで器具庫に置いていて、ここにはまだ運んでない。
あんなの早くから入れたら出入り口でえらい迷惑になる。
そう言うと、千尋はパッと顔を明るくした。


「……なに?」
「じゃぁ一緒に器具庫に行ってくれないかな。女子のほうもこれから最後のツメでね、そろそろコーヒーカップとか用意したいんだ。」
「……そう言われてもさ。」


僕の両手は、紙で作った白や青やの花みたいなのでいっぱいになっている。
一応、持ち場はここで、まだ作業は絶賛継続中だ。


「葦原ー、」


上から呼ばれて、僕と千尋は同時にそいつを見上げる格好。
呼ばれたのはどちらかというと僕のほうだったらしい。


「行ってやれば?でもってついでに看板も取ってきてくれたら助かる。」
「平たく言うとパシリじゃないか。」
「女子がお願いって言ってんだ、男子的には断われない場面じゃね?」


こいつは知らないだろうけど、千尋はこないだから、僕にとってただの女子じゃなくなった。
半年の間に、ここじゃないどこかでいろいろあって、
僕らは、彼女と彼、ってやつになっている。
千尋の言うなりになって持ち場を離れることに、少し照れがあった僕だけど、
これで大手を振って千尋とこの場を離れる為の、大義名分を得た。


「………じゃ、そういうことで。」
「わ、ありがとう!」



あーあ、可愛い。



そう、ここは宮ではなくて学校だった。
だから、宮にいる時よりも気持ちを引きしめて、僕らはただのイトコです、で通してる訳だ。


(ずっとそうやってきたんだけど)


何だろう、それがとても難しい。
ふたりで並んで歩いてると、自然に手を繋ごうとして、指先が動いてしまう。
それは千尋も同じだったみたいで、柔らかい皮膚が触れた瞬間、あっ、と言って引っ込めた。


「ご、ごめん、ダメなんだった…!」
「だね。」


涼しそうに返したけど、僕も僕で少し近づきすぎていて、
並べた肩の間に十分な隙間を取り直した。
放課後のチャイムが鳴ってから随分経って、秋の廊下は、夕暮れを通り越して夜の気配になっていた。


「えっと……あ、もうすぐ本番だね。」
「まぁね。」


本番というのは文化祭のことだ。
器具庫まで、たくさん教室を過ぎたけど、どのクラスも予行練習に追われている。
さっきから、妙な衣装を着たヤツと擦れ違ってるのもその所為だ。
僕らのクラスは無難に、喫茶店みたいなのをやる。


って、まぁそれはいいんだけど。


「僕たち、息抜きに来てるんじゃなかった?」
「ん?息抜きなんて言ってたっけ?」


千尋は律儀に考える。
そして、これは息抜きではなく、『異文化交流』である、と女王らしくのたまった。
確かに狭井君はそう言ったし、風早もついてきて(ついてきてくれないとさすがに異時空には来れないし)
パッと見、遊びではないけどさ。


「それは表向きだろ、その実休暇だったはず。」
「でも文化祭って、遊びみたいなものでしょう?」
「授業は減って助かるけど、毎日放課後まで働かされる。何だってこんな面倒くさい行事にぶつけたんだよ。」
「だって、異文化交流だから。」


千尋は、『文化』の部分にアクセントを置いた。
こうまっすぐな声で言われたら、体育祭じゃなかっただけマシか、と思うしかないのかもしれない。


「千尋は楽しい?」
「うん!」
「そ、なら良かったね。」


僕が王座を返上してからというもの、千尋は慣れない重い服を着て、一日中新たな勉強に追われていた。
それは僕も同じだったけど、千尋は国を直接背負っているぶんなのか、
ひとりになると背中をまるくしてはため息ついてるところとか、僕は見てた。


それこそ、僕なら、たまには休ませてよとか言うのを厭わないけど、
千尋はそうじゃない。
だから、内情が落ち着いてきた頃に、そろそろ休暇やってもいいんじゃない、って、
裏でおせっかいを焼いた訳だ。


―――うん、確かに悪くないか。


豊葦原の中ではどこへ出掛けても女王は女王だから、
ここならただの高校生で、幾らでも気楽にしていい。
前は窮屈に思えた制服だって、あれと比べたら身軽にさえ思えるじゃないか。


とか思っているうちに、幾つか階段を降りて、器具庫だ。
千尋が扉を開けると、こういう所特有の、湿気た匂いがする。
模擬店のワクとか、演劇の小道具とか、暗幕なんかも保管されているはずだ。


「あれ、電気が点かない。」
「はぁ?」


千尋はスイッチをパチパチやってる。確かに電灯には何の反応も起こらなかった。
僕も一歩中へ入ってみた。結構奥行きがあって、いろんなものが無造作に置かれているから、
廊下の僅かな灯りを頼りにして目的のものを探し出すのは、かなり至難ぽい。


「スイッチ間違ってるんじゃない、ちょっとどいて。」


何気に手を伸ばしたら、そこにはまだ千尋の指先が残っていて、
なんて言うか手をまるごと包み込むみたいな感じになってしまった。


「あ……」
「……は?」


言ったように何の気なしだったんだ、
いよいよ点かなかったら風早んとこでも行って、懐中電灯借りなきゃ、とか思ってたんだから、
断じて僕に邪気はない。



―――のに、なんでこんなに心臓がはねてるんだ。



「なっ……何だよ、ちょっと触れただけじゃないか。」
「そ、そうなんだけど……!なんか、ドキドキしちゃうっていうか。」


千尋が困惑気味に言った言葉が、僕には甘く甘く聞こえて、
邪気なんかなかったはずのこころの中に、ここじゃ多分抑えたほうがいいんだろう感情が
ふつふつ湧いて込み上げて来る。


千尋の指を中に入れたまま、一応パチパチやってみたけど、やっぱ点かなくて、
最近出入りが増えた所為なのか、一年に一度しか使わない器具庫のあかりはここへ来て限界みたいで、



同時に僕も、限界みたいで。



そのまま身体を半分まわすだけで、僕は千尋を、
簡単に抱きしめてしまえる。後ろからぎゅうと、僕のものにしてしまえる。
思いついたときにはもう、そうしてしまっていた。


両の手のひらはすぐに千尋のセーターを撫で上げて、
触りたい膨らみに触れてしまう。


「やらか……」
「だ、めだよ那岐、ここ学校……!」
「知ってる。」
「そ、そして出入り口!」
「じゃぁ奥なら?」


返事がないから、ねぇ、と呼んで、
振り向いたところにキスをした。
僕が出来る最大限の、甘いのを、ゆっくりゆっくりした。


「……鍵かかるかな。」


これは、唇の隙間から聞こえた小さな声だ。
同時に開いた大きな目は、多分もう濡れていて、
重そうに数度瞬いた。


「―――かかるんじゃない?」


この世界で使ってきた鬼道は、いつも対荒魂の為だった。
けど、もう、流れてくるものなんてないんだから、たまにはこういうふうに使ったっていいと思う。









器具庫の奥は、大道具がたくさん積まれていた。
フミダイにする為の椅子なんだろうけど、僕は腰掛けて千尋を膝に乗せる為に使ってる。
誰も入って来れないよ、って言ってるのに、抱き込んだ千尋の身体はまだ固かった。
部屋でするのと全然違う、どこかよそゆきの千尋に触れるというのは新鮮だった。
裸にしないで、って言うから、ブラウスの裾から手をつっこんで、手探りに下着のホックを外した。


左右から寄せると、やっと手のなかいっぱいになる大きさの胸は、ほんとにやらかくて目眩がしそうだ。
指先でまるい先を摘んで、つんと角を立たせてく間に、堪らなくへんな気分が膨張する。


「ん、ぁ……っ」


なるだけ出さないようにしてたらしい声。
我慢してる、っていうのが手に取るようにわかる出し方で、
こういうの聞かされると、もっと意地悪してやりたくなる。
うなじから首筋を、唇でたどったら、滑りいい肌は熱あるみたいになっていて、
緩く吸い上げるつもりが、少し痕になったかもしれないっていう強さになってしまった。


「や、やっぱり、……っん、やめようよ……」
「千尋も感じてるじゃないか。ここつんつんにしてさ。」
「こっ、これはそうじゃなくて…!」
「じゃぁどうなの。」


答えられないくせに強がるから、片方の手をスカートに潜り込ませた。
めくれ上がってしまわないように、足に手のひらをぴったり這わせながら、
指先を下着まで届かせると、ぬかるみを隠すぶぶんだけ、直に触れられるようにずらした。
その時の感触だけで、入れなくてもすごい濡れてるのがわかった。


「こんなになってるのにそうじゃないって?」


そのビクッ、ていう仕草は、バレたとでも言いたいんだろうか、
こっちにしてみたら今更で、さっきから全然わかってたし。
ひだが緩く重なったそのぶぶんは、指が滑ってしまうくらいになっていたから、
挿し入れていったら水かきまでが一気に埋まった。


「ひ…ぁ……っ!」
「ほら、やっぱり感じてる。」


中で関節を曲げて、千尋が好きなところをつつくようにすると、
じゅんと濡れたものが入り口まで沁み出てくる。
膝に掛かる重さが一段増して、凭れ掛かって来た身体を、きゅうと寄せた。


「那岐ぃ……」
「なに。」
「あ、あっ……だめ気持ちいい。」


その声は本当に可愛くて、だめなのはこっちのほうって言いたいくらいだった。
僕の、制服の中で押さえつけてるものがぴくと動いて、いよいよ後戻り効かなくなる。
ぐっしょり濡れた指を引き抜いて、ベルトを緩めた。
カチャカチャやってたら千尋が首をこっちに向けて、不安そうに言った。


「ね、ねぇほんとに最後までしちゃうの?」
「千尋だけ気持ちいいとかずるいと思うんだけど?」
「そ、だけど……続きはおうちで」
「その先、言ってもいいけどやめないよ。」
「えぇぇ……」


千尋の腰を浮かせて、はいるぶんだけ下着を引き下ろした。


「はい、この上座って。」
「座ったらはいっちゃう……」
「……聞き分けないね。」
「っ、やだ……那岐おねがい……!」


女の子を後ろに引っ張って座らせるなんてほんと容易過ぎて、
半ば無理矢理みたいだけど、千尋も千尋で本気で抵抗してるような力じゃない。
お互い濡れてるものが、ぴた、とくっついたら、それもほろりと緩まってしまったってことは、



やっぱひとつになっちゃいたいって、千尋も、思ったんだよね?



「おいでよ。」
「ん……。」


引き込まれるようにして、僕の先端はその入り口をかき分けて、
溶かされそうなその奥へ、導かれてしまう。
何だって最初からそんなに締め上げてるんだ、千尋は。


「あぁ……ん、なんか那岐おっきい……」
「千尋だって、せま……いって」


途中までしか息出来ない感じ。
浅くて、まるで過呼吸。
千尋はそんな僕の上、ちゃんと座ってしまって、結果的に僕は、思いがけぬ奥まで挿し入れてしまった。


「ちょ、いきなりぜんぶとか、さ……」
「そ、そうなっちゃうんだもん……っ」
「わかる、けど……!」


言い出したのは僕だから、覚悟を決めるしかないんだけど
本当に、本当に、もうすぐにでもいっちゃえるこれを、どうしたらいいんだろうか。
せめても、激しく動かすことは出来ない姿勢で良かった。


見た目ただのうしろだっこだけど、誰にも見えないとこが、ちゃんと繋がっている。
と思うと、鳥肌が立ってしまうくらい、身体が甘く痺れていって、
根元まではいったまま、揺さぶるみたいにするしかできない。


「はぁ……ん、はっ、」
「こんなでもいい?」
「いい、すごくいいの……!」


千尋の膝が、少しずつ開いては、思い直したようにして閉じて、それが僕を煽る。
願わくば膝を割って、もっと広げたい気持ちになるけど、
それやったらほんと泣かせてしまいそうでできない。


「繋がってるとこ見てやりたい。」
「だ、だめ、それは、ぜったいだめ……!」
「なんで、ベッドでするときみたいに、全部見せてよ。」
「や、だ……!」


膝に手を掛けたら、思ったとおり必死で抵抗する。
すごい心配してるんだろうけど、しないよ、ちょっと苛めたいだけ。
手に汗握る千尋が、痛いくらい僕の手首を掴んで、
お願い、って言うのを聞きたいだけ。


「ねぇ那岐……っ!」
「なに?」
「おねがいだから今はいや……!」
「いつならいいの。」
「こ、こんどするときは、その……いいから。」
「じゃ、そのときはすっごいやらしいことさせるからね。」
「―――も、もう……!」


広げられないぶん、気持ちいいのが逃げ場ないんじゃないかって、
僕はずっと奥で、やっとつつくくらいしか動かせないんだけど、
そのぶん、そこばっかりすごくいいんじゃないかって、
そのたび、襞に埋もれたぶぶんがぐん、と熱くなるから、わかる。
すっぽり包まれた状態で、しとどに濡らされながらいれてると、脈打つみたいに震えてくる。


「那岐、もしかしてもういきそう?」
「……は?」


なんでバレるんだろうか、やや得意気な声音が気に入らない。


「千尋だってじんじんしてるくせに。」
「っ、そ、そうかな?」
「バレてるよ。」


意地でも先いかない、って決めて、一度しっかり突き上げとくことにした。


「あっん……あっ、あっ!」


千尋の髪が、僕がするとおりに跳ねる。
すっごいいい眺めだと思う。
灯りの切れた器具庫は、千尋が小さく上げる声と、僕の浅い息と、
くちゅくちゅとやらしい水音でいっぱいになった。


「締めつけてるよ。」
「だって、っ、もうだめなんだもん……っ」
「はやくない?」
「ん……あ、いや、いっちゃいそ……あぁっ!」
「そりゃ助かるけど。」



ほんとはもっと、してたい。千尋と、ずっとやってたい。



芯が一本通ったみたいに、僕のに筋が立って、
文字通りいっぱいになったもので内側を擦る。
明るかったら、きっと綺麗すぎる色に染まっているであろう千尋を、
もっと隙間なく繋がれるように、抱え込むようにして、
制服の下に隠した身体を想像したりした。


「や……も、ほんとにいっちゃう……!」
「僕も、やば……っ」
「あぁぁ、して、那岐して……!」



ほんとさ、なんてこというんだ。



椅子が軋むくらいに揺さぶって、千尋がびくん、と痙攣するのと、
僕のが決壊してしまったのは、殆ど同時だった。


「あぁ……だ、め――――!」
「っ……!」


真っ白になりながら思う。
いってる身体を抱きしめるのは、結構力がいるんだ、って。
突っかかりそうな早さで心臓が打ってるのは僕も同じで、
しなだれてくる千尋と、泥みたいにグダグダになった僕は、


互いに身体を預けあうことで、上手い具合に釣り合っていた。









時間にして、どれくらいサボっていたことになるんだろう。


えらく目が慣れて、コーヒーカップはあそこだ、とか、
壁に立てかけてあるのが看板かな、とか、二人で言いあいながら、
僕らはまだひとつの椅子でカタマリになってて、なかなか立ち上がれないでいた。


「もう戻らないと怪しまれちゃうね。」
「電気点かなかったから手間取った、でいいんじゃない?嘘じゃないし。」
「ふふ、でもみんな困っちゃうよ。」


千尋は、おなかのとこで僕の手を握っては、指で遊んではしてる。
こうしてたらほんと、ただの女の子なんだけど、
でもって僕も、ただのその彼氏ってだけなんだけど、
文化祭が終わると休暇も終わって、また現実に立ち戻らなきゃなんなくなる。
それはもう、決まったことなんだ。



千尋と僕には、あの国を継ぐ為の血が流れてる。



「もう少しだけ。いま動けないんだ。」
「じゃぁ、10数えるまでだけ待ってあげる。」
「……ん。」


カウントを始めた千尋の声は、さっき高く上げてたのより、何故かもっともっと、
甘くなったように聞こえた。



ああそうか、これは、そうじゃなくて、僕が甘えてるんだって、



10まで待てずに、寝ちゃうかも、なんて思いながら、
そろそろ鬼道も解かないと、とも思いながら、
うなじの奥の、やらかい声を、夢見るみたいに聞いていた。






− 異文化的青春スコープ・完 −





胡蝶さまから『那岐×千尋 那岐ED後現代・高校生』でリクしていただきました!
しかもRつけていいと、な、な、そんなTLな嬉しすぎるはぁはぁ……!(←どうした
すみません大変大好き過ぎるシチュです。
ED後なら那岐千はもうそれこそセット的に、いっつもふたりでくっついててしかるべきだろうと思っていたので、
わざわざ学校に飛ばしてそうそうくっつけない、いりいりする那岐も可愛いかなと…!
なんか、つきあってても学校だとツンてしそうな気がする那岐。
千尋に「なんかちがう」とか言われて「違わないよ」「ほらちがう!」っていう喧嘩をやらかしてくれそうな感じ。
那岐千の青春グラフィティはそういうシーンでいっぱいだといい。
胡蝶さま、リクエストありがとうございました!

2009.10.17 ロココ千代田 拝