◇
押し倒されたり仰向けになったりするのはどうしても恥ずかしいとかなでは言った。
好きな女を押し倒すというのは、大袈裟でなく男のロマンの一位か二位くらいには入ることだと
少なくともオレは思っている。
だからそれを断わられたのはかなり痛手だった。
それも、かなでの服を言われたように首からすぽんと抜き取ったあとの、
初めて見たもん見たあとの、
オレにとっちゃ一にも二にも前進、ってタイミングだった。
にもかかわらずオレってヤツは悉くわがまま言えねぇタチだ。
結局かなでの言うままになって、押し倒さないまま向かい合わせに抱きながら、
立て膝にさせた脚の間を手探りにして、やっと指が入っていくところを見つけたのがさっきのことだ。
今や水かきまで、指の長さの全てが埋まっていた。
熱くて、ざらっとしてて、目で見えるところの触れ心地とは全くちがっている。
こんなのがかなでの皮膚の一部だなんて、まだ半分信じられない。
かたくなに顔を見るなと言ったかなでの気持ちが、少しわかる気がしていた。
オレだってこんな、ハトが豆鉄砲くらって、けどひたすら我慢してるみたいな顔は、
今だけは見られたくない。
再びソースをグラビア誌のエロ特集に限ると、想像していたより滑りが悪い。
凭れ掛かってくるかなでの重みを感じながら、
指全体を使ってぐると弧を描くように動かすと、
快感というより不快そうな、かすれたような声が上がる。
「…どんな感じ……だ?」
「ん……よくわ…かんない」
指の太さには慣れたらしく、痛いとは言わなくなったが、気持ちいいとも言わない。
やっぱり声くらい出させたくて、入れていない方の手でツンと上向きの胸をさわった。
「あっ……」
こちらは反応がいいことを、オレはこれまでに覚えていた。
大きくはないとかなでは言うが、盗み見るオレも確かに否定する訳じゃないが、
手のひらにまるみをすっぽり収めた感触は十分にやらしい。
撫でる力の向きをほんの少し変えるだけで、ふよとそのとおりにへこむ。
触れるとすぐに、乳首はきゅ、と絞るように蠢いて、吸い付きたくなるかたちに立ち上がる。
「あん、あっ!」
一際可愛い声が上がったのは、堪らなくなって口に含んだ瞬間だ。
男としての条件反射なのか、舌で突起を知覚すると、どうにもつついてやりたくなる。
その小さな輪郭をなぞるように舌先で転がすと、声はさらに可愛くなって、
中にいれた指が急激に濡らされ始めた。
鼓膜の遙か下方から、聞いた事ない音がする。
オレは散々照れまくり、明るくしてヤろうぜなんて言い出さなくてマジで正解だったと思っている。
「ぅん……いぃ…、かも」
かなでがはふ、と息を継いで、久しぶりに顔が見えた。
顎を持ち上げた、ものすげぇ色っぽい顔が、目線を少し上げた先に入ってくる。
“ね、いまカワイイって思ったでしょ”
かなではよく自分でそう言うヤツだ。
例えば、学校帰りに港の石畳の舗道で、段差に躓きかけた後だとか、
珍しく楽譜を真剣に眺めてるかなでを真剣に眺めているオレに気付いて目を上げた瞬間だとか、
こっそり呼び出したオレの部屋で、やや感動する映画だかを見終わって、
ティッシュを一枚くれてやったことを、オレも忘れてDVD取り出してるときだとか。
一度も素直に「ああそうだな」なんて言ったことはない。
いつも、散々催促されて、仕方なく「あーあーそーだなっ」と返すのが関の山だ。
だが、いまオレの目線の延長線上でかなでは、
それらのどれよりも可愛いと思う。
オレのやることにかなでが反応するだけで、オレはここまで骨抜きになれるらしい。
わざと音を立てるようにして、ころころとする乳首を吸った。
抱いた腰があからさまに跳ね上がる。
「や……ッ、だめ響也ぁ…!」
すげぇ媚び方だとは確かに思った。
媚びる女は嫌いだとか言うヤツがいるが、まぁ99%は強がりだろ。
それも、こういう状況なら100パーだろ。
イヤなワケがねぇ。こっちははち切れそうだってのに
さしいれるたびに脚の付け根がびくびく震えてるのがわかる。
手のひらで受けられそうなくらい、濡れたものが滴って来て、
肩にかかる重みは今までで一番だ。
やべぇ。超絶に非日常
かなでの着衣はほとんど脱がせていたが、
オレはまだほとんどいつものままの恰好だ。
ベルトで圧迫した着衣のなかみがすごい早さで膨張している。
幾ばくかの自制心はいよいよ切れた。
急いて胸から唇を離して、深みから指を抜き取った。
「……っん…」
そのときのドキッとするほどの生々しい感触が、指の長さぶんだけ通り過ぎた後で、
かなでのとろんとした目がオレを真っ直ぐ見つめてくる。
オレはどんなふうに見えてんだろうか。
気持ちのとおり、かなでを猛々しく捉えようとする目を、ちゃんと見せることができてんだろうか。
つーかこの濡れた右手をどうしたらいい?
浅い浅い呼吸の音は、
どっちがどっちの出すものかってこともわからなくなって
まざってまざってまざっていた。
そんな音を、イヤになるくらいに聞いた後で、言えたことと言ったら、
「かなで」
「う、うん」
いつもの名前を呼ぶことしか、専ら方法がなかったオレの、
情けな気味の声にかなではこっくり頷いた。
「……いいよ」
オレが濡らした胸元を隠しながらかなではあっち向いて言う。
ここへ来て、あんまり絵に描いたような展開で、オレは思わず
「そっ、そうかよ」
とか言ってしまった。
ぶっきらぼうにもほどがあるが、多分オレは、こんなギリギリになって、
幼馴染みって関係に甘えたんだと思う。
そういうふうに甘えることができる相手で、良かったと思っている。
こんなでも、泣きも怒りもしないかなでが、
オレは本当に好きなんだと思う。
「な、なんかドキドキするね」
「つーか天変地異だろ」
かなでと過ごした時間の全て
それはオレにとって、そしてかなでにとっても、絶え間ない日常の連続だ。
勘定するのも気が遠いくらいの日々から、いまこの瞬間だけ、
オレらは取ってつけたみたいな時間を切り取ろうとしている。
ややかくかくした関節で、かなでをベッドに沈めた。
見よう見まねだが文句あっかとしか言えない。
かなでだって似たようなもんだ。
ベルトに手を掛けながらかなでにまたがると、ごくりと唾を飲むような表情をした。
好奇心をなんとか隠したつもりだろうがバレている。
「そんなに見んなよ」
「見とかないと怖いし…それに」
「……オレとお前の仲だってか?」
「……そんなかんじ」
そう怖がってる顔には見えないが、
子どもの頃のでも思い出してんだろうか。
ひでぇやつだ。
◇
脱いだとたんに怯んだかなでの脚をぐいと開かせた。
その真顔が隙になったことになる。
開かせたり閉じたりの攻防は避けられたのを好機と見て、
オレはその間に膝を入れて割り込んだ。
M字とはよく言ったもんだ、なんて不謹慎なことを思いながら、
だが息ができないほどの極まる感情を感じていた。
かなではもともと色は白いほうだと思うが、脚の内側なんてまじまじ見たら、
夜気の中でまるで浮かびあがるようだ。
「や、やだよ見ないで…!」
「お前が先に見たんだろーが」
「そ、そんなに大きくなるなんて知らなかったんだもん」
悪い気はしないのに、言われて急に照れた。
早く埋めちまうに限るみたいな気持ちになって、
先で触れなから入り口を探る。
かなではやっぱり竦んだ顔で、だが始終そこに目線を合わせていた。
そういえばと思い出すのは、かなでは、小さい頃は注射のときに針を見つめてるタイプだった。
オレはとても見てられなくて、おまけにぎゃんぎゃん泣くほうだったから、
近くで大人っぽく耐えてるかなでのことが、いつでも羨ましかったりした。
ふとそこがへこむのを感じて、引き込まれるような感覚にとらわれた。
かなでがびくんと身体を跳ねさせる。
ほんの少しだけ、先のまるみが埋まっていた。
「かなで…」
「ほ、ほんとに、は、はいっちゃう…んだね」
痛そうな顔はオレにうつる。
オレは少しも痛い訳じゃないのに、同じような表情をしてしまう。
これはもう、癖みたいなもんだ。
全部を入れたら泣かしそうで、抜いたりまたそのあたりまでいれたりして、
こころの中で、ただ慣れてくれとばかり思った。
痛みに耐えるようだったかなでの顔が変わったのは、
ようやく全部が埋まって、初めてかなでの中で動いた時だった。
「あっ……」
「……あ?」
思わず聞き返したくらい、かなではまるで、
何かを見つけたみたいな顔で天井を見ていた。
その目はすぐにオレと合わされた。
動いたばかりで、早くも動きを止めることになった。
「なんだよ」
「う、うん、もういっかいして」
言われて、さっきしたようにゆっくりと挿入すると、
かなでは途端に、明らかな反応を見せた。
「あぁっ、や……っん!」
指ではほとんど無反応だったかなでだが、全然違う。
短く、ひっきりなしに繰り返す、こんな息づかいを聞いた事がない。
言いたかないがオレは半分怯え気味で、だが、
恐いもの見たさというのは確かにある。
鋭いほどの声を聞きながら動きを早めた。
固まっていたかなでの膝が、少しずつ緩む。
それでも大きく広げさせると嫌がるが、気持ちよくなるとあきらめるらしいことをオレは覚えた。
「……響也ぁ」
「ん?」
「響也の、これ、なんかすごく気持ちいい」
「そ…っか」
ッたりめーだと言えたら良かったのに
たっぷりと潤んだかなでの目を見ていると、見てはいけないものを覗いたような気になって、
半端な返答しかできなくなる。
「あぁん、んんっ、すごい……」
喉を反らして味わうかなでに、オレの喉が鳴る。
がばっと羽交い締めにして、ひくついている首筋に噛み付きたくなる。
が、余所事を考えると腰が止まっちまうのもまた難で、歯がゆい。
「すげーのはお前だろ、あんま、っ絞んな」
「っ、って、知らないよ…!」
「嘘つけ! マジでやべぇってのに」
これが俗に言う「身体の相性」ってやつなんだろうか。
新しく探り当てたところへ入れるたびに、かなでは内側の温度を上げて、
オレはぬかるんだ何かに搦められたみたいになる。
指でしていたのとは全く違う、繋げた薄い皮膚と皮膚で、
粘膜レベルでじかに擦れる快感が、腰骨までビリビリ来る。
我慢できない劣情のままに律動させて、がくがくと揺らす。
かなでの身体はオレがすることで、ここまで思うままにできる―――
―――なんて思うだけでゾクっとして、内側いっぱいに膨張させてしまう。
どこかにつかまりたいんだろうが、やや大きめの枕に皺を寄せて、
ぎゅっと握って耐える仕草が堪らない。
小振りだが形のいい胸が規則的に揺れるのも堪らない。
んな恥ずかしい恰好するもんだから
やらしく身を捩ったりするもんだから
もっと声を出させたくなる、聞きたくなる
オレじゃなくたって男なんて多少そんなもんだろ。
好きなヤツほど苛めたくなる的な。
「ああぁん、あっ、あ…ッ、い……!」
かなでの声で煽られて、角度をつけて突き上げた。
きつくやった衝撃で、逃げる方向にずれたかなでの腰に、
しっかりと手を食い込ませながら繰り返すと、ベッドが遊ばれたみたいな音をさせて軋む。
「や……ぁ、あ…んはっ、あっ、」
かなでは余裕のないふうで声を継いで、内側を急激に熱くしていた。
滑りが悪いと感じていたのはそう前のことではないはずだが、
今では、意識してないと抜けてしまいそうに蕩けている。
オレの脚まで濡らすくらいの潤った内壁は、脈みたいに収縮していた。
ひどい馴染み方だ。
比べる対象は何一つないが、
自分じゃねぇ身体に初めて繋いで、こんなに馴染んでいいものなのか。
「……やべ」
身体の芯から震えそうで、少し動きを緩めた。
オレのを飲み込んでる濡れたところがひくひくしていて、
震える原因は多分これだ。
その濡れたのを指で掬って、翳りを掻き分けながら辿っていく。
入れたものが限界なら、指でできることがあるのを思い出した。
「あん…っ!」
それに触れた時、高い声と同時に締めつけられた。
どれだ、とオレは、よく見えるように入れたままかなでの腰を持ち上げた。
中で微妙に動いたのが刺激になったか、かなでは喉を反らして大きくビクンと震えた。
「いや、だめ、そこやだ…」
「いやって顔じゃねぇだろ」
「や、や、だめだってぁぁん…ッ」
もともと緩める為に始めたことだったが、その感じ方を目の当たりにしたらそうも行かなくなる。
今にも脈打ちそうになってるものを捻り入れて、一定の抽送を繰り返しつつ、
指先で小刻みに擦るところは小さな芽みたいなもので、続けていると熱く膨らんで突起状になる。
時々ぬめりを追加しながら根元から掘り起こすようにすると、
かなでは一気に高まった。
どっちかにして、みたいなことを泣きそうな声でせがむ。
「だめ、ほんとにダメ…なんだってば…っ」
「そんなに駄目出しすんな。落ち込むだろ」
いやじゃないのはわかっていた。
コリコリした感触がだんだん硬くなってくのが堪らなくて、
答えに困る言葉で苛めたかったのもある。
「ダメなら止めるか?」
「や、やだっ、だめ!」
だよな。そうなんだろ?
というのを確かめたかったんだと思う。
「どうすんだ?」
「っ、もっ…と、もっとして」
そのやや直接的にすぎる、明け透けな言葉が聞きたかった。
今まで知るはずもなかったが、間違いなく、かなでは感じやすい身体だと思う。
女にとって、それは恥ずかしいことなのかどうか、わからないが、
オレとかなでの仲ならば、隠して欲しくない。そこだけはどうしても譲れない。
随分とこぢんまりした優越感だっとしても、だ。
「あっ…あ、やだ、なに」
「…かなで?」
「や―――」
突如形が浮き彫りにされたような、明確な感覚が貼り付いた。
していたことを止めると、シーツの上で脱力したかなでが、
喉を反らして身体をぴくぴくと波打たせている。
オレは、いれたものが狭く締めつけられる感覚に、固く唇を引き結んだ。
「ど……した?」
「……その。……いった? のかも」
「―――!?」
こんなつもりではなかった。
どっちかと言うと先にイって怒られるところを想像しながら始めたはずのオレだ。
止まない収縮に弄ばれながら、オレは一瞬で火照り上がって、
限界が更に近づいた気がした。
◇
浅い呼吸が少し収まる間だけ待って、だからかなり性急だったが、
かなでを抱き起こして向い合わせにした。
何って訳じゃないが、このほうが落ちつく。
目を潤ませて小さくすすり上げるのとか、「見ないでよ」と毒づくのとか、
こうやっていつもの角度で見てられるのがいいのかもしれない。
かなではオレのTシャツを、頭からすっぽり抜き取った。
「大丈夫、か?」
「ん」
かなでの身体を、今、オレは初めて素肌で抱きしめたことになる。
ぺったりとした気持ちいい身体に腕を回して、下からゆっくり突き上げる。
少しだけ落ちついた空気に沈んでいたベッドの上が、
その一度でまた色づいた気がした。
「ふ……ぁ」
一度極まったところはキュッと引き締まっていて、
加えて正常位で入れるより、明らかに深みに届いてしまう恰好だ。
かなでがいい反応を見せるからつい忘れそうになるが、
そういえば初めてだったはずで、こんなのは乱暴かもしれない。
頭ではわかっていて、だが、思い浮かんだそのあとを追うようにして、
痺れる甘みに包まれてしまえば簡単にとどめられるもんじゃなく、
動きは自分で思うよりも急速に激しくなっていく。
「やっぱ痛むか?」
「そのぶんもっと気持ちよくなるかな」
「……わり、あんま自信ねぇ」
どこまで甘えるつもりだ、オレは。
かなではきつく腕を巻き付けて、堪えるような息を吐きながら喉を反らせる。
その白い首筋に口付けたのは、いまオレにできる限界のいたわりだった。
かなでの肌は熱出したみたいに熱くて、
舌先で舐め上げるとくすぐったそうに身を捩る。
「……お前って、可愛いよな」
「―――へ?」
「なっ、なんだよ! ンな顔すんならもうぜってー言わねぇ」
「え、え、そんなこと言わずにもう一回」
「断わる!」
ムードも何も、なくなったところで吹っ切れた。
いたわろうと抑えてたいろいろを、オレはそこで、一気に噴出させたことになる。
改めた腰つきでかなでの奥へ届かせて、かなでの髪がふわと浮き上がったのを見た。
「あぁぁっ…っんっ、響也いきなりっ……んはっ…!」
眉根を寄せて抗議するのがものすげぇ可愛く見えて、
擦り付けてこそげるように動かした。
オレってのはやっぱ強気のかなでが好きだ。それもとことん好きだ。
迎え撃って出端折るじゃないが、その強気を崩す瞬間にもっと好きになることを知った。
ぬるついて仕方ない襞の間を圧し開いて、ほぼ垂直に突き立てる。
じわ、と中が緩んで、カタチのとおりにぴったりと締めつける動きを感じる。
挫けそうになるほどイイのを騙し騙し、根元で左右に揺さぶった。
「あんっ、や、ぁっ、ねぇ……っん……っ」
浅くひっきりない息づかいは何か言いたそうだ。
強請られたようで耳ざわりが良すぎて、それだけでつつと寒気が背筋を昇る。
「っ、なんだよ」
「最初みたいにして」
「最初って」
「だから……ゆっくり、して」
言われて初めて速さを緩める。
つい夢中になって、やや激しさが過ぎる抜き挿しをしていたみたいだ。
だが、これが堪らなかった。
ゆっくり動かすということは、かなでがすることを如実に感じられる余裕ができるということで、
激しさでごまかされていた感覚に、オレはヒタヒタと包まれてしまう。
奥で堪ったぬかるみへそっと挿し入れた時の、その中でぴくんと先が絞られる感覚は、
妙な声でも出せそうなくらいだ。
そうならないように、確かにオレは厳しい顔をしたんだと思う。
「……ゆっくりじゃ楽しくない?」
かなでが心配そうに、やや斜め上からの目線を寄越した。
「いや、ンなことねぇよ」
「だってあんまりっぽい顔じゃない?」
「………むしろ逆だろ」
わかんねーかなぁ
かなでを抱いてるってだけで
かなでとヤってるってだけで、
これ以上オレがなんか注文つけられるなんて思ってるなら甘いもいいところだ。
それにまず、オレがいいかどうかってよりは、
かなでがいい顔するかどうかのほうが、
オレにとっちゃ幾らも大事だ。だてに何年も好きでいる訳じゃない。
そう思ったら、自分でも驚くほどに優しい声が出た。
「なぁかなで。オレに遠慮なんかすんなよ」
「…でも」
「今更だろ。オレはどんなお前でも好きなんだからさ」
「らしくもねぇ」と付け加えたら、慌てたように「そっちこそ」と言われた。
こんなときまでかなでってヤツは、参るくらい強気だ。
そこを崩してやりたくて、かなでの腰をぐいと寄せて引き付けた。
「ぅん……っ!」
いい角度ではまって、じわと先走りが滲んだのを自覚した。
ゆっくりと抽送を始めたら、立位のかなでの奥のほうから、
人肌の液体が溢れるように、オレのに伝って降りて来る。
かなでの身体ごと、下半身を使って持ち上げなければならないはずだが、
そしてそれほど軽くはないはずだが、不思議と少しも苦痛だとは思わない。
跨がるかなでの脚の付け根はオレの脚と密着していて、
時折痙攣したように脈打つ。
同時にぐっしょり濡れていて、汗だけではこうはならないという滑り方をする。
打ち付ける音と水音で、特にラブホじゃないはずの部屋が淫らな雰囲気で充満する。
やらしい物音は聞いているだけで煽られて、
オレは撹拌するような動きをつけて、かなでを立て続けに攻めた。
「あぁぁっ……や、も……っあぁん限界っ…」
「言いたかねぇが、っオレもだ」
「あっ、あっ、んんん……ッ」
見せる反応があまりに切羽詰まって見えて、漏らしたものは底溜りの攻撃性だ。
オレはとうに限界値になっている、その長さで届くところ限界まで侵入して、
腰ごと抱えてがくがくと上下に揺さぶった。
胸の中でかなでが、向こうへ向こうへ反っていく。
抱き寄せてやらねぇと
思っていて、わかっていて、できなかった。
そのときのかなでは、見蕩れるくらいしなやかだった。
「…あ、あ、イ……っちゃ―――ぅん…!」
かなでの痙攣で我に返った。
きつくきつく引き絞る、螺旋の出所まで連れられそうで、息を止めて抱き竦める。
そう、ここまで辛いのはほんの少しのはずだと、
男が出すときの射精の間隔、あれが終わるまでの時間だけだと、
はち切れそうに脈打っているものを未だゆるゆると律動させながら、
かなでが完全に動きを止めるのを待った。
「………っ」
最後の一波はいきなりに来た。
反射的に腰を引き、ぬかるんで鼓動するところから、抜いた瞬間に弾けてしまった。
ずるっ、と逆撫でられた感覚が残る。
(マジあぶねぇ)
脱力して、かなでをベッドへ押しつぶしていきながら、
冷静と激情の隙間、オレんなかに浮かんだ言葉はそんなだった。
「早く中に出せるようになりてー」
「…ばか」
バカでいい。
いまは、正直な気持ちしか出てこない。
◇
ベッドに腰掛けて着替えてる響也を、シーツにくるまりながら見てる。
まだしんどくて、半分目が開かないかんじが拭えない。
私は着替えるのは朝にして、このまま寝ちゃおうかと思っている。
全身素肌でシーツを感じるのは初めてだ。さらさらして、とても気持ちいい。
「帰っちゃうの?」
背中の雰囲気がどうもそんなかんじだから、シャツを引っ張って尋ねた。
制服は通学に適した服装であって、寝るにはかなりそぐわない。
「オレがお前の部屋から朝帰りするとこ、誰かに見られたら、お前がからかわれるんだぜ」
「……ふふ。ありがと」
「別に」
一緒に寝たいなとは思う。
けれども、響也の言うのは尤もだ。
ごまかしたり嘘ついたりすのは上手いひとだけど、自分のこととなるとそうでもない響也だ。
そんな場面に直面して、慌てたくないんだと思う。
「かっこよかったよ、さっきの響也」
「っ、バッ、そ、そういうこと言うなって!」
ほら、こんなふうに。
ドン引きして振り向く、やや男らしさに欠けた風情が好き。
するときはあんなふうにするのに、って知ってしまったから、
如実に男らしいよりも逆にやらしく見えるのか。
「なんでー?」
「照れるだろ! ふつーに」
「あは、エッチしてもそこは変わんないんだ」
「るせー」
だまれ、みたいなことを小さく言って、
響也はベッドの私に向かって、腰を折ってキスをした。
これは、不意打ちだった。
「っん」
「……へんな声出すな」
「……出ちゃうよ」
身体は嘘がつけない。
眠気に似た心地よさに、深くふかく沈んでしまいそうだ。
「しょうがねぇ。明日の朝には、いつものお前に戻れよな」
「はーい」
「わかってんのか」
「大丈夫だよ、寝たら忘れるから」
「……」
自分でも、正直どうかと思うけれど、
まぁ、それはまた、長く過ごしていくふたりの時間の間には
上手く制御できるようになるといい。
響也は気は短い。そこを短所と思っていることを私は長いこと知っている。
素直に好きと、言ってくれないところもあって、その自覚があることも知っている。
そういう、いっぺんに解決しないいろいろがあるからこそ、
私と響也の間でも「これから」なんて言葉を使うこともできる。
屈めた身体をもとの姿勢に戻して、
その場で立ち上がった響也と、
「おやすみ」
「おやすみ」
この日二度目のおやすみを言いあう。
壁を叩いた私の願いは、多分にそれを越えて叶いすぎた。
少しだけ、淋しいと思うから。
けれども、しかし、だとしても、
もうすぐに響也がこの部屋を出て、隣の部屋に戻ったあとも、今夜は―――
―――今夜だけは、この壁の向こうには
またいつものふたりに戻るまでの間だけ
いつもよりほんの少し近い距離で、藍色の夜がのっそりと寝そべっている。
振り上げかけたノックを我慢して、大人しくちゃんと、眠ることができたなら、
明くる朝、素肌に一番の太陽を浴びたあとで、
掻き捨てられない恋心を、あなたと持って帰りたい。
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