戦のない世界、とは、不思議なものだな。
このような人混みの中で、お前の事だけ考えていればいいなんて。
潜む敵に、神経を尖らせる事も、もうない。
ただ、、。
これだけは、敵と呼んでよいものかもしれない。
ぴぴぴぴぴ、ぴっ、、
『のそみえのてんえきのてんしよくのしたてまつ』
わからない。メールの操作は何とか慣れてきたが(あ、、怪しいところも多々あるが)
濁点、小文字、句読点。こちらの世界の文字とは、どうしてこうも多種なのだ。
さらに、筆文字を横にしたような、異国の文字も使いこなすとは。
これで、望美は解ってくれただろうか。
俺のメールを、彼女が理解する確率は、今のところ五分五分。
今日のように、急に顔を見たくなった時に、即座に連絡がつく手段、と
教えられたが。
ふう、、。
望美、とても奇麗なんだ。天井がきらきらとして。
金色過ぎて、やたら大きな星だがな。
12月、江ノ島駅は、星降る駅舎。
いるみ、、ねーしょん?とかいうものだそうだ。
お前と共に、これを眺めたくて。
この世界に来てから、待つ時間など、あの頃に比べれば瞬時に似たもの。
京へだってその日のうちにゆけてしまうところ。
だから、このままお前が来なくても、あの頃ならば待てたのだろうな。
鎌倉高校前まで、5分。
黒い皮の財布から、ちゃり、、と銀色のコインをつまみ出した。
硬貨投入口、と書かれたすぐ横の刻みの中へ、それを差し入れた時。
その声が、聞こえた。
望美、、、。わかった、、のか?
、、って、お、おい!こんな人混みで、、。
こら、背にまわした手を、、どうにかしろ、、、。
これが習慣?そうなのか?
ずいぶん無粋、、なのだな。、いや、、便利な、習慣、、だな。
ほら、すごい奇麗だろう。
そう、そんな風に、大きな瞳に満点の星を映しているお前が見たかった。
本当は、こんな電飾なんかより、お前の方が、
何倍も、奇麗なんだ。
この髪も、戦場でなびいていたのも美しかったが、
今こうして、おとなしく俺の指の間を滑るのも、いいな。
そっと、九郎の唇が、かき分けた前髪の隙間から、望美の額に触れた。
12月の風に吹かれて、それは、少し冷たくて。
何をそんなに驚いている?
習慣、なのだろう?
手も冷えてきたな、そろそろ、帰るか。
少しためらうように、手をつないでくるお前は、不思議だ。
俺の顔を見るなり抱きついてきたりするくせに、
こうやってコートのポケットに一緒に手を入れると、
白い頬を紅に染めて。
こっちまで、意識する。
冬の風は、恋する二人を近づける。触れ合う腕が、体温を分け合って。
こちらの習慣は、暖かい。
お前のうちまで、あと少し。
いつまで俺は、律儀にお前を送り届けられるのだろうな。
こちらの習慣は、少しだけ酷だ。
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