「あーっつーい!」
ギラギラの太陽の下、望美は早足で歩いている。
大きな鞄には二泊ぶんのお泊まりの用意がしてあった。
涼しい色のキャミソールと、ふわふわと軽いスカートにしたが、
嬉しくてあれもこれもと詰めたせいで、それでも汗が滲んで来る。
だが負けない。
夏休みに入って数日、この日が来るのを大変楽しみにしていたのである。
「この為に模擬テスト頑張ったんだから!」
志望校の合格圏内に入ること、これが、夏休みに九郎と連続した数日を過ごす為の、
両親そして九郎ともどもが望美に課した条件だった。
九郎と親とが上手くいっているのは願ってもないが、こういうことまで息ピッタリなのはどうかと思う。
「でも、ご褒美に九郎さんがバイトの休みを取ってくれて、九郎さんちで過ごせるんだもん。」
そんなご褒美が付くとあっては、なにが何でも逃すことは出来なかった。
これからしばらくは、電話でなくても声が聞ける。
昨日の電話では、いよいよ明日だね、から始まって、それに天満宮の夏祭りだね、というような話を切り出したら、
どうやら望美だけでなく九郎も俄然行く気であったらしく、 やはり気が合うなというようなことになってささやかに幸せであった。
そういえば先程から擦れ違う家族連れも多い。
浴衣のカップルもたくさんいた。やっぱり可愛い、と羨む気持ちは隠せなかったが、
「いやいや、贅沢は受験生の敵!」
お小遣いはなるべく可愛い服をなるべく安く手に入れることでいっぱいいっぱい。
今日もそのうちの何枚かを着て来たが、そう遠くない未来には、
着回しの組み合わせが尽きることをやや恐れていたりする。
そんなことを気にする九郎でないとは思う。気にされたら少しスキが減ってしまう気もする。
けれど、ひとりの女の子としては気になるところである。
が、とりあえず目下、目指すは九郎だ。
出来るだけのことはした。なれるだけ可愛くなったはずだ。
人事を尽くして天命を待つ、これは模擬テストの為に覚えた最新のイイ言葉である。
「うん、早く会いたい!」
ワンルームの鍵をギコ、と回し、九郎が帰宅する。
バイトがある日に、明るいうちから帰ってくるのは珍しいことだったが、今日からしばらく休暇をもらい、
そのぶん午前中は馬車馬のようになって働いてきた。
スニーカーを脱いで、とくに揃えるということもしないが、とくに散らかす訳でもない。
いつもの癖で鍵を掛けかけて、
「いや、そろそろ来るか。」
思い直し、鍵はあけておくことにして、大人しく廊下に上がった。
柔らかい生地のポロシャツに、膝丈ほどのパンツ姿、
この世界へ来て、初めて夏を迎えた当初(まだひと月ほど前だ)は、
スネを出して歩くなどと憤慨したものだが、いまではその便利さを理解している。
意外と順応性のあることは、自分でも驚きだったのである。
廊下はただ一本道、風呂とキッチンのあいだのスペースともいう。
ヒンヤリとした床を裸足に心地よく思いつつ六歩ほど歩いて居室に着いた。
まだ机とベッドくらいしかない、ちなみに最初から備え付けであった家具である。
九郎は、いつもの場所にバイト用の鞄を置き、もう片方の手を占領していた大きな紙袋を、
部屋の真ん中で開封した。
これは、バイトの帰りに買って来たもので、
正しくは何日か前から注文しており、今日の予約で仕立ててもらっていた。
仕立てた、というように、それは服の種類で、九郎がバイト代で初めて買った大きなものになる。
店先で、出来上がり具合は確認して来たから、
いかに彼女に似合いそうなものになったか知っている。
あとは、彼女がやって来て、これを着て、出掛けるだけだ。
和紙の包みをはらりと開くと、染め糸の良い香りがする。
薄い桃色の、浴衣である。
九郎は、なるだけ指先を繊細に工面して取り上げると、
衣紋掛けはないのでハンガーに整え、ひょいとカーテンレールに引っ掛けた。
矯めつ眇めつ眺めるに、どれほど似合うだろうかと心がはやる。
女の着物の見立てなど初めてだったが、俺も満更でないと悦に入る。
「良い仕立てだ。」
望美の和服姿は、時空を越えてから一度も見ていない。
帰った当初は洋服というものが新鮮だったが、人間とは慣れる生き物だ。
この世界にも、似たような衣装があると知って、贈るならこれだ、と即決した。
「早く着て貰わねばならん。」
九郎は窓際、仁王に立ち、
エアコンを入れるのも忘れて、まだ見ぬ望美に想いをはせたとき、
玄関のチャイムが鳴る。
会いたい時に、ちゃんとやってくる望美だ。
ほんとうに気が合うな、と思いながら、来たばかりの廊下を戻ってドアを開けた。
チャッと開いた隙間から、まず入って来たのはまっすぐな桜色の毛先だ。
「暑中お見舞い申し上げます!」
そしてあとから満面の笑み。
笑いを堪えて背に手を回し、促して、ドアは九郎が閉める。
いつもこうしている。
「なんだそのあいさつは。」
「お届けものでーすのほうが良かったですか?」
「普通にこんにちはではダメなのか。」
「そんなことよりお祭り行くんでしょう?ねぇはやくいこう!」
なるほど、上がろうとしないのはそういう訳か、
楽しみが高じすぎて喉から出掛かっているらしい。
たいへん可愛くて結構だが、しかしまずは部屋へ上がってもらい、アレを着て貰わねばならない。
ぐいぐいと腕を引っ張られるのを宥めるように押さえて、言った。
「少し上がっていってもいいだろう、喉くらい潤していけ。」
「わ、いいんですか!ふふ、ほんとはすっごい暑かったんです。」
望美のこういう素直なところが好きである。
勝手に冷蔵庫を開けるのも許す。他所でしないようにあとで教えねばならんと毎度思いつつ、いまに至る。
廊下兼キッチンのシンク上、硝子のコップは綺麗に洗って伏せてある。
九郎は割と家事をきちんとやるほうだ。
洗濯物を溜めたりもしない。とくに水回りはいつもスッキリさせておくのが信条だ。
望美はなみなみと注いで、喉をこくこくと動かしながら、飲み干すと更に注いだ。
余程急いで来たか、額にピタリ貼り付く前髪が愛しい。
「せいぜい今のうちに飲んでおけ。」
浴衣になってから濡らしたりするより、その方がいい。
言って部屋に引っ込んだ。あとはカーテンレールの前で彼女を待つだけだ。
薄い桃色の地に、沙羅双樹の模様をつけたものを、と頼み込んだ。
仕立て上がった様はまるで当時の望美の着ていたそのもの、尤も丈はもっと短かったが。
「九郎さん?」
「なんだー?」
「……なんで、部屋に入っちゃうの?」
おかしなことを聞く。なんで、などと。
まぁ、確かに驚かせたい気持ちもあるからわざわざ言っていないが、
廊下から聞こえる望美の声はやや怪訝そうだ。
「べ、別に何ということもないぞ。それより飲んだら早く来い、時間もないからな。」
「………なにかしたいことがあるの?」
「あぁ、ちょっとな。してもらいたいことがある。」
「え……!」
そう、端から見れば一目瞭然だが、そのとき望美は警戒していたのである。
無論、九郎には到底わかるはずもなかったが。
まさに、おそるおそるという風情で顔を覗かせた望美は、
九郎の目線をたどるや否や、一瞬にしてもとの明るい顔に戻った。
「九郎さん、それ……!」
小走りに九郎の隣に並んだ望美の脳裏、そんな望美を引き寄せた九郎の脳裏に、
同じ思い出がたくさんたくさんすぎていった。
「花を斬った時のお前は、ほんとうに綺麗だった。」
「九郎さんのは?」
「ん、あぁこれはその……なんだ、試験の褒美だ。お前の言うように言えば、暑中見舞いだからな。」
「……うそ、くれるの?」
「あぁ。」
ふわりと笑った九郎の胸に、望美はぴたんと貼り付くように、その顔を埋める。
「ごめんなさい、疑ったりして!」
「なんのはなしだ。」
「いいの、いいの。私が勝手に、九郎さんのこと誤解したの!」
「よくわからんが、喜んでくれているのだな。」
「うん。大好きです……!」
そして、浴衣の前で、小さなちいさなキスをした。
――――ここまでは、非常に順調だった。
十分か二十分かあれば、じゅうぶん家を出られるはずだった。
照れ120%の九郎がやっと身体を離し、廊下へ向き直った、そこまでは。
「では俺は先に外に出て待っているから、着付けられたら来い。」
彼女とはいえ着替えるところをワンルームで覗くのは、
親しき仲にもなんとやらだ。
九郎は清々しく踵を返したのだったが、ポロシャツの裾をぴ、と引かれて喉が締まった。
「な、なんだ!」
振り向くと、喉は緩んだ。
俯き加減の望美はもじもじと、しかし言った。
「できないの。」
「なにができない。」
「浴衣。」
「……なんだって?」
「私、一人で着れないの。」
九郎は真正直に、目がまるく丸くなるのを感じている。
京で過ごしていた頃、望美はいつも、綺麗に着付けていた気がする。
多少剣を振るっても、気崩れることなどなかったはずだ。
「あれは……上手く着られるように作ってあったんですよ。ていうか気付いたら着ていたし。」
「……嘘だろう?」
「そうなの。難しい着物は朔に着せてもらってたんだもん。」
「……信じられん。浴衣までか?」
九郎にしてみれば着付けなど朝飯前、正式な着物ならいざ知らぬが、一枚着の浴衣など
寝間着にも使用したもので、サササと手早く着られるものだ。
「く、九郎さんは私が寝る時、どんなふうに着付けてたか知らないでしょう?」
「それはまぁそうだが……」
「朝になったら、いつもすごいことになってたんだから。」
「―――なんだと?!」
どんなことになっていたというのだ。
俄然胸が高鳴って来る。
「ど、どんなだ。」
「……え。」
「ご、誤解するなよ、参考までにだ!」
「だから……胸が……はだけて、裾も真ん中から……こう、なんていうかふたつにわかれて」
「………。」
九郎の脳裏には、言われたとおりの望美の姿が描かれていた。
それもかなり、正確に。
ボッと火がついたように、九郎は顔を赤らめる。茹でたタコなどのほうがまだ落ち着いて見える。
「も、もう!想像したんでしょ九郎さんのエッチ!」
「なにがえっちだ!そんなふうになるお前のせいだろう!」
「ひどい!言えって言うから言ったのに!」
「――――っ!」
そう、そうなのである。ここで言い返せたらほんものの意地っぱりになれる。
が、ここから始まる望美との蜜月なる数日を、諦める覚悟があればの話だ。
「………。」
「………。」
少々不安になるほどの沈黙が過ぎた。
いつ、帰ると言い出すか、気が気でないのに言い出すまでに時間が掛かった。
嘘をつくのも得意でないし、綺麗な言葉で飾ることも然り。
だから、この膠着状態を脱する為には、九郎はいつも、正直になるしかない。
「お前の言う通りだ。確かに想像した。だが、それさえ……そういった姿さえ、綺麗だろうなと……思っているんだ。」
「も、もう。」
そして、時としてその率直さが、望美の心をなによりぐいとつかむことがあるのを、
九郎はよく知らない。
「カッとなってすまない。」
照れを隠せず言って、カーテンレールから浴衣をとった。
「九郎さん?」
「着付けてやる。」
「本当に?良かったぁ!」
「大船に乗ったつもりでいろ。このへんのどんな女より、綺麗に着せてやる。」
ふたりには、それ以外に残された道が、なかった訳だ。
九郎も望美も、初めは純粋に、着付ける者、着付けられる者であったはずで、
九郎は薄紅の蝶でも舞わせるように、ひらりと望美の背に浴衣を回して、
望美は両腕を袖の高さに持ち上げて、
「おねがいします。」
そう言って、ごく健全にそれは始まったのである。
「洋服の上から着るつもりか?」
「あぁ、そうだそうだ。脱がないと。」
「しっかりしてくれ、そこからでは流石に参る。」
「これはたまたまです。」
ほとんど下着のようなキャミソールを、望美はつるりと脱いでしまった。
キュ、と脇から寄せるタイプの下着をつけていた。
九郎の目線、やや下方に、くっきりとした谷間が露になった。
「それはどうするんだ?」
「――――!」
「どうした?」
「そ、そのままで、いいです。」
「こういうものはつけないほうが、なだらかでいいんだが。」
「こっちではそれが普通……なんです。」
「そうか、残念だな。」
そういうものか、と九郎は諦めて、望美の袖を通しかけたのだったが。
「……あっち向いててくれますか?」
「あぁ?」
「あ、そのまま持ってて下さい、浴衣。」
「……おかしな奴だな。」
望美はするんと浴衣の向こうに隠れてしまい、
暫しの後、パサ、と床になにかが落ちた音がした。
「――――望美?!」
この浴衣の向こう側、彼女がどんな姿になっているか、
想像もつかないような朴念仁では、九郎はない。
まだ数えるほどだが、それがとてもまるい、片手ではやや零れるくらいの大きさの、
白いものであることを確かに知っている。
「ぬ、いだので……あの、浴衣で隠して下さい。」
「あ、あぁぁ、わ、かった。」
九郎は視線をなるだけ上へ上へ向け、生地で望美をくるむようにしたのだったが、
それでも心は下方へあったようで、視界ギリギリの残像に、柔らかそうなふくらみがしっかり焼き付いた。
「すかーとは」
「それは着てからあとで脱ぎますから!」
「そ、そうだな、できないこともないな!ハハハ!」
「………。」
「………。」
九郎はひとつ咳払い、なだらかな胸に前身頃をそわせると、そっと重ね合わせた。
どれほど心が波打っていても、着付けにおいては大事な段階なので、口をキュッと結んだ。
少し顔をひいて、左右がおかしくならないように、位置取りをじっくりと、
まるで魅入るように見つめたあとで、
望美がまっ赤になって目を逸らしたのを追って、襟を立てるのに首筋に触れた。
「………っ!」
「……なんだ。」
「……なんでもないです。」
望美の髪は長い。気を付けて羽織らせたつもりだが、襟から背中へ、僅かな束が入り込んでしまっていた。
だから、襟の中に指を入れたのである。少しずつ色づき始めているうなじを、
さわさわと触れるかたちになってしまったのである。なんだかまるで抱きしめているような風情なのである。
「ん、あっ……」
「望美!お、お前はさっきからなんて声を出す!」
「だ、だってそんなふうにさわっちゃやなんです……っ!」
「ではどうすればいいんだ!」
「もっと、こう、ザカザカっていうふうに」
「ザカ……ってできるか!着付けてるんだぞ!」
九郎はキリキリと沸き上がる熱いものを感じている。
妙に静まり返ってしまって、みんみんと五月蝿く蝉が鳴くのが、耳に貼り付いたようについてくる。
この精神状態でよくできたと思うが、やがて裾もきっちりと整い、
帯締めの一端を歯で噛んで、望美の腰に巻き付けると、ようやくホッと息を付いた。
綺麗に括れている腰は、予想より多く巻き付かせねばならなかった。
(これほど細かったとは……)
やや感慨しつつ、腰をひとなでしてしまった。
これは完全に九郎の過失である。
「や……っん、九郎さん……!」
「なっ、妙な声を出すな!」
「だって……!」
九郎としても、既にパンツのジッパー周辺の形状が変化し始めている。
だが、この仮留めをくくり、いよいよ帯を締めれば晴れて着付けが終了する。
我ながら美しく着付けられている。もうすぐなのだ。
急いて片結んで、垂れ下がった結び残りを、巻いた中へ押し込んだ。
そう、キュ、と指先をくの字にして、下腹にくいくいと食い込ませたのは仕方のないことなのだが。
「もう、だめ……」
「おい……望美!」
望美はほろりと崩れるように、九郎の胸へとしなだれかかる。
はぁ、はぁ、と浅い息を繰り返しているその身体も、しがみついた腕も、とても熱い。
生地を隔てても、それははっきりとわかってしまった。
「……今ならまだ間に合うから言う。せっかくここまで着付けたんだぞ?」
「うん。知ってるんですけど」
「時間もない。」
「うん、でも……感じちゃった。」
それは、俺こそがそうだが―――?
九郎は、紙一重の理性で築き上げたものを、自ら壊すことを選んだ。
腰を屈めて望美の足元から手を入れ、中のスカートにぐいと指を入れて下ろした。
「あ、やだ、それじゃいっぺんに―――!」
望美の警告は九郎に届かなかった。
悪いことに、脱がすや否や放ってしまったので、スカートだけでなくその下の最後の一枚も、
一緒に奪ってしまったことに気付かない。
そのまま裾の合わせの、上の一枚を右へ、重なったほうは少し奥へ手を入れて、左へぐいと開いた。
「いや……!」
「―――これは、すまない。」
「それならそんなに見ないでってばぁ…!」
望美は必死に手を使って、晒された平らな箇所を隠そうとするが、
その太腿からは、既に一筋、零れるものが光っている。
「ねぇおねがいですから!」
「見ないから手を外せ。」
「……。」
「嘘じゃない、本当にもう見ない。」
九郎は立ち上がって、望美の手のひらの上から自分ので包んだ。
そして、望美の手は掻き分けてしまって、自分の指はそのまま残す。
「いいな?」
「……ん。」
そっと割れ目にそわせて、濡れたところを探る。
抜き差しすると、つぶんと音がしそうなほどにぬかるんでいて、
望美は急速に頬をほてらせた。
「や……っぁん……!」
望美が高い声を上げた。
立ったままでそこに触れられることには慣れていなかったのと、
もともと感じていた身体は我慢が利かなくて、九郎があいた方の手で胸の身頃をひらく頃には、
背に汗が滲んでくるのが自分でわかるほど。
九郎はくちゅくちゅと水音をつくりながら、崩せるだけ崩した合わせから手を入れて、零れそうな胸を露にした。
ツン、と上向きの、かたちのいいまるみが、脇へ柔らかく流れるのを寄せながら、
乳首の先端を含んでしまう。
「あ……いや……!」
いやというのに、舌先を固くして、ころころ転がすようにする。
小さな粒は、九郎がするとおりに色付いて、輪郭がくっきりと立ち上がる。
快感はいりぐちまでびりびりと繋がって、九郎の指を根元まで濡らしてゆく。
「ん、あっ……すごく、いい……っ」
「お前の声はたまらないな。」
胸を解放した九郎だったが、既にその手で自分の着衣を緩めていた。
「ん……?」
九郎は、指も抜いて間髪もなく、片足をぐいと持ち上げた。
望美の膝裏を、身体ごと押し込むようにして広げる。
「うそ、このまま入れるの……?」
と、近づいて来るひとまわり小さな身体は怯えている。
何度か見せたはずのものが、これ以上なくぴんと反り勃っているのを、まじまじ見て首を振る。
「いや……こんなのいやです!」
「すまん、もう待てないんだ。」
「そんな」
九郎は、じりじりと望美を壁ぎわに追い込んで、
ぐ、と捻るようにして埋めてゆく。
そのひどい熱さと、膨らみようで、狭い入り口を滑り入れる時の刺激が強い。
九郎がそうなら、望美もまたそうである。
「あぁっ……や……っん」
望美の内部に隙間なく密着させて、擦るように動かす、かたちまでわかるといいと思った。
入れるのとおなじ早さで、じんじんと奥が脈打っている。
望美が目を潤ませて、切なそうに眉をしかめてしまうのが、たまらなくそそる。
「やだ……濡れちゃうよ……」
「っ、溢れすぎて抜けそうだ。」
九郎は差し入れる速度を早めて、望美を腰から抱き寄せる。
申し訳程度のすきままで、ぴったりとくっついたせいで、深く深くはいってしまう。
望美が意思とは関係なく上げる声に、煽られて止まないから、耳を塞いでしまいたくなる。
が、それは一向にとまらない。
「あっ……あっ……ん……!」
望美の足がふるふると震えて、そろそろ立っているのも限界に見えた。
エアコンをつけ忘れた部屋の中、窓から降り注ぐ燦々とした太陽と、割れるようなセミの羽音、
九郎も、望美も、溶けてしまいそうな汗を滲ませている。
「あつ……いな。」
九郎は残っていた服を脱ぎ捨てて、いれたまま望美を腰から抱え上げた。
突如身体が浮き上がって、望美は反射的に、九郎の首に手を回す。
「またへんな格好でさせる……。」
「せめて皺にならんようにだ。」
「うん……。」
今度はゆっくり、突き上げた。
奥の奥へ、まるい先がしっかり届いて、熱いひだの中に埋まり込む。
律動させるたびに、望美はきゅん、と九郎を引き絞った。
「ん、ん……」
「そんなに締めつけて来るな。」
「だって、九郎さんが、すごい……の。」
ゆっくり入れているから、望美の声も切迫したようなものでなく、
溜め息のしっぽを色づかせるようにして、ほんのりほんのり喘ぐ。
繋がったところを擦り付けるようにして揺らすと、はだけきった白い胸がふくらに弾み、
九郎の劣情はピークになって、ぐん、と強い抽送にする。
「あ……っん!」
「あの頃のお前も、こんなふうに抱いたなら、」
「ん……っはい?」
「同じ模様の衣をはだけて、俺の名を呼んでくれたか?」
「……したかった、ですか?私と。」
「思わぬ訳がないだろう。ずっと、好きだった。」
「――――私も。」
しがみついてくる腕がぎゅ、と狭くなる。
九郎は角度をつけて、しとどに濡れたものを、抜いては入れて、繰り返す。
「夜這いにでも行って、寝乱れているお前を一目見たかった。」
「九郎さんはやらしいです。」
「そ、う言うお前はどうなんだ……!」
「私は、キスしたかったな。」
せがむように言うから、引き寄せられるようにして、
九郎は望美にしっぽり口付けた。
隙間に零れる吐息が、とろりと蕩けるみたいな気がする。
舌を絡めながら、息を継いではまた塞いで、口腔を風邪でもひいたような温度にして、
望美のなかも、ぽっと火がともったようになる。
きゅう、と一際絞られるのを堪えて、九郎は蜜の淀むところを、いちばんの先端で圧した。
「んっ………は……ぁ」
留めきれなくて息を漏らして、望美は綺麗に背を撓らせてゆく。
その、自由になった首筋を、九郎がやわに吸い上げた。
「九郎さん、もぅ、いってもいい………?」
「ん。」
「あぁいく……っ!」
抱きしめた身体はひくひくと跳ねて、全力で解かれようとして、
繋げた先はらせんのような収縮で、九郎を奥へ持っていった。
「―――っ、」
最後に名前を呼ぶ余裕もなかった。
◇◇◇
フローリングの真ん中で、ぺたんと膝をついて、ぐったりしているふたりである。
皺になったらいけないと、望美はそれでも懸命に、姿勢には気を使っているつもりであったが、
九郎は、結った髪も低くなり、まるっきり肩が落ちて、息がまだ整わない。
脱ぎ捨てたものがまだ点々と散らばっていて、望美としては目のやり場に若干困り、
そっと視線を外していた。
男のひとはほんとうに、大変だなぁなんて思いつつ、
白い太陽に目を細め、蝉の声を聞いている。
「………これからまた着付けるのか」
「おねがいします。」
そっぽを向いても、意思表示はきっぱりと。
「着て来たの、着てゆけばどうだ?」
「えぇ……?」
「ハハ、冗談だ。」
そしてどうやら立ち上がったらしい音、そして暫し、治まったはずの頬をまた染めつつ、衣擦れを聞いている。
根気よく待つと、やがて頭の上に、ぱふんと大きな手のひらがのった。
よし、もう振り向いてもいいということだな、と察して、
にこりと笑って毛先を翻せば、きちんと着衣した、おなじく笑う目が合った。
「誰より俺が見たいんだ。」
「じゃぁ私は髪の毛くくってあげます。」
「ハハ、それはいいな。」
今度は脱線しないように、お互いに気を付けながら、
望美はようやく、想い出色の浴衣に包まれた。
望美は弾むようにドアを抜け、先に外へ出た。
「お前が浴衣で俺が洋服というのも妙な気分だな。」
「九郎さんの浴衣も買おうよ。でね、着付けも覚えて、九郎さんのは私がしたいんです。」
「そうか、気長に待つ。」
九郎は、いつのことだろうな、と思っているに違いない。
望美も自分であやしいくらいだ。
が、ポニーテールは上手にくくってあげられたから、素質はちゃんとある気がする。
夏休みの、ぎらぎらの舗道をゆく。
そのうち汗でつるつるしそうだけれど、伸ばされた手のひらをしっかりとって、
慣れない下駄でゆっくりゆっくり歩く。
「痛くならないかなぁ。」
「そうしたらおぶって歩いてやる。」
「……気を付けます。」
「ほんとうに、可愛いヤツだ。」
その髪の色にまけない、
まるで、太陽のようなひとからもらった贈り物で、熱が出そうに幸せだ。
これからも、そう、少なくとも二泊三日は、喧嘩しないでいられますように。
大好きなあなたへ、暑中お見舞い申し上げます。
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