これは、南国の夜の湿度だけではない。
桜色の髪に掻き入れた指先が、じっとりと汗に濡れる。 首筋にかかる望美の吐息が熱くて、俺はまた少し、震える。
「や、、、将臣くん、、、。」 背に、甘い痛みが食い込んで、俺の焦る気持ちが、漸く平穏に近くなる。 「いいぜ、、、。来いよ、、。」 「、、、っ、、、ダメ、、いく、、、ぅ」 息が止まるくらいに、強く俺の肩をつかんで、望美は意識を手放した。
こんな夜を、もう何度過ごしただろう。 その度に、白濁する意識の中で、俺はお前の陽炎を見る。
揺らめく炎の中に、あるいは水面か。
その度に、お前はもう、いないのだと。 その事が、どれくらい俺を苦しめるか、お前は知らないんだろうな。
背を向けて軋む、小さな肩を抱く。 「、、、とも、、、もり、、、。」 ほら、な。 眠っていても、望美はお前を、忘れはしない。
代わりになんてなれやしねぇんだ。 何処とも知れぬ南国まで、こいつがついて来たのは、少しでも お前の海の、近くがいいと思うからで。 元の世界に帰る事さえも、拒んだ望美を、俺はついに説得できなかった。
守れねぇお前がわりぃんだって そう言えばいいのか。 敢えてお前の女、って呼んでやる。 お前の女は、まだ待ってんだってさ。
帰りゃしねえお前の事を。
寝返りを打った望美の、緩く閉じたまぶたの端に、小さな水滴が光った。 それを、俺のごつい指で拭うのは、どうしてもはばかられる。 それはーーーー。
教えてくれ。 お前なら、どんな風に望美を抱くんだ。 俺のやり方じゃ、どうしたって代わりになれねえんだ。 あいつの小さな身体を、どうしても満たしきれないのは それは、お前じゃなきゃダメだからで。
望美の、この涙が乾くまで 俺にできることは、ほんとは何一つありゃしねぇんだ。
だからせめて、教えてくれ。 お前の腕が、望美を包むやり方を。 お前の指で、あいつをどうやって熱くするのかを。 お前が、あいつの悲しみを乾かす、そのやり方を。
きゅう、っと望美がまた、俺の背を抱いてくる。 浅い眠りは、奥の熱を呼び覚ます。 「望美、、、。」 合わせた唇が、先程の余韻を求めて甘くうごめいて。 熱帯の夜が、二人をまた近づける。
どうしようもなく、深く、沈めてしまうんだ。 この声を聞いていたら、たまらなく愛してしまいたくなる。 静かな夜に、俺の動きに合わせて小さく喘ぐ顔で、また俺は震えるんだ。
「将臣くん、、、」 俺の首筋に顔を埋めて、望美はつぶやいた。 「ごめんね、私、、、こんなで、、、。」 また新しい涙をこぼすから、俺が哭く隙なんてどこにもねえじゃねぇか。 「今更、、。それでも勃っちまうのは俺なんだから謝るなって。、、、な。」 少しずつ、白い肌が染まってゆく。 確実に、登り詰めてゆく望美を、下から見上げて 俺は初めて気がついた。
小さな胸を揉み上げたその膨らみの下の、細く、長く残った傷跡。 これは、お前が残した傷跡。
まだ治りきらぬそこを、指でなぞると、望美は僅かに苦痛の表情を見せた。 この傷が癒えるのを、恐れるように。
お前を超える術なんて、どこにもありはしない。 こんな小さな傷一つ、俺は勝つことができない。 どうして、残していった?
やりきれなくて、ただがむしゃらに望美を抱いた。 何度声を上げさせて、何度高みへ誘っても、 望美が届かないーーーー。
こんなにも、孤独な二人の夜を これから幾度、重ねるのだろう。
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